背徳の時間〔とき〕B 後編-1
先ほどから部屋には数人の仲居が出入りし、手際よくテーブルの上に夕食の料理を並べていく。
この宿自慢の、和洋取り揃えられた創作懐石のフルコースは、一品一品に工夫が凝らされ、手がこんでいる。
料理の中に込められた、造り手の心づかいを感じ、美しく華やかな飾り付けも、真由花の食欲をかき立てた。
料理の配膳を終えた仲居達が、一礼し部屋をあとにすると、和気と真由花だけの宴の時間が始まった。
『さぁ、真由花乾杯しようか?』
「うんっ。」
『それじゃ、22才が真由花にとって素敵な1年になるように……乾杯!』
チンッ…。
2人は薄桃色のはかなげな少女のようなイメージの、ロゼのワイングラスの淵を重ねた。
「和気さん…真由花、和気さんと出会えたこと、感謝してるよ。」
真由花はほんのり目元をロゼ色に染めながら、和気にそう告げた。
『どうした?急にあらたまって…。』
和気は半分照れながら、真由花にほほ笑む。
「ううんっ。深い意味はないの。ただね、そういう気持ちでいるってことだけね…知ってて欲しかったって言うか…。」
『真由花と結婚する奴は幸せ者だな…。俺そいつに嫉妬するかもな。』
和気はそう言って笑っている。
「ははっ。何よそれ。」
真由花も和気につられて笑った。