背徳の時間〔とき〕B 後編-3
真由花はこの頃、営業部の研修期間中で、和気の部下の丸山に付いて、仕事を教わっていた。
その為、和気と距離的には近い場所にいたが、和気は仕事柄外回りが多く、2人が社内で顔を合わせたことはなかった。
ただ社に戻ってから、真由花のウワサは度々耳にしていた。
そんな折り、バーベキュー場で丸山が、和気と真由花を引き合わせた。
「初めまして、染谷真由花です。」
恥ずかしそうに挨拶をする真由花を見て、和気は噂通りの可愛い子だなぁと頬をゆるませた。
しかし、社会人の仲間入りを果たしたとは言え、見るからに純粋で幼げな真由花に、和気はその時、男性としての特別な感情は抱かなかった。
『真由花ちゃんかぁ…。この丸山は要注意人物だからね。うかつに誘いにのらないように…。何かあったら俺に言っといで!』
…と、隣にいる部下の丸山を指差して、冗談まじりにそう言うと、営業部の他の人に呼ばれ、その場を立ち去った。
この時真由花は、和気と出会った瞬間、今までの人生で経験したことのないほどの、激しい恋に落ちた。
胸がドキドキして、心臓が飛び出しそうだった。
初めての一目惚れだった。
和気とその隣にいる丸山に、異変を気付かれないように、真由花は必死に笑顔を浮かべ平静を装った。
和気は陽に焼けた肌に、切れ長の涼しげな目元をしていた。
鼻筋が通り、唇は薄めで歌舞伎役者にいそうな、品のよい顔立ちをしていた。
顔だけを見れば、特に目立つ印象ではなかったが、長身の体から醸し出される男らしい雰囲気や、低く通る声など、全体のバランスが、和気を輝きのベールで包んでいた。
胸に赤い鳥の刺繍がしてある紺色のポロシャツを着て、下は定番のベージュのチノパンに、某スポーツメーカーの白地に赤の3本線のスニーカーという、いで立ちだった。