SEXの条件・学級委員長 川崎静奈 A-4
「お前――おもろいやつやな」
俺は改めてしずの顔を見た。
「別に――ちょっとお節介焼きたくなっただけ。アンタって、なんとなくあたしと同じ臭いがするから」
しずが初めて、にへらっと笑った。
女にしてはくっきりとした濃い眉。その下にあるおっとりとした優しげな瞳には、同い年とは思えへんような不思議な貫禄が漂っている。
こういう雰囲気の女を、俺はあと一人だけ知っている。
厚かましくて、
お人よしで、
頼りがいのある、
俺に似た、お節介な女―――。
つまりこの瞬間から、しずは俺の中で「オカン」になってもうたんやと思う―――。
その後、たまたま同じクラスのやつが誘ってくれたこともあって、俺は陸上部に入部した。
あの時のしずのアドバイスがなければ、俺の中に陸上部なんて選択は存在せえへんかったと思う。
そして結果的に、陸上部に入部したことで、俺の高校生活は色んな意味でかなり充実したものになった。
「オカン」の直感力というのは、時に本人が思った以上の奇跡を起こすものなのだ。
――――――――――――
学級委員会が終わって時計を見ると、5時半をすぎたところだった。
しずは職員室に寄らなければいけない用事があるというので、俺は一足先に教室に向かうことにした。
なんだか気持ちがソワソワしている。
しずが俺に何を言おうとしているのか、朝からそればかり気になって仕方がなかった。
『今日……委員会のあと……時間ある?』
今朝、上目使いでそう言った時の、いつもと違う不自然なしずの態度。
心なしかちょっと潤んだ瞳が、なんというか……やけにその――色っぽくて――。
ありえへんことに、俺は一瞬、アイツの表情に「女」を感じて―――グッときた。
しずのヤツ……なんで急に俺にあんな顔見せんねん。
まるで好きな男に見せるみたいな―――。
……いやいや…俺何考えてんねん。
俺らの間にはそういうややこしい感情がないからこそ、ずっとうまくいってんのに――。
そんなことを考えながら教室の扉をガラリと開けると、俺の席に欝陶しいヤツが座っているのが見えた。
けだるそうに椅子の背もたれに寄り掛かりながら、大きく組んだ長い脚をぶらぶらさせて自分の携帯電話をいじっている。
―――またか。