SEXの条件・学級委員長 川崎静奈 A-3
俺はこれまでの転校だらけの人生の中で、知り合ったばかりの他人と上手くやっていく術(すべ)を必死で身につけてきた。
だから、そういうことには人一倍気を使っているつもりやし、今回も上手くやる自信はある。
――なんやねんコイツ。
俺のこと馬鹿にしてんのか?
「――向かへんて、どういう意味やねん。俺ってそんなややこしい男に見えるか?」
相手は女やし、転校初日からトラブルを起こすのは面倒や。
俺は怒りを抑えて、極力友好的な微笑みを浮かべながらそう言った。
「そうじゃないよ。むしろその逆」
しずは相変わらずニコリともせずに俺を見ている。
「あたしの直感だけど……アンタって、どこへ行っても周りにうまく合わせすぎるタイプっぽいもん……でも……部活ぐらい、人に気を使わないでやりたくない?」
「………え?」
想像もつかへんかったようなその言葉に、俺は目を見開いた。
穏やかで諭すような口調は母親のようでもあり、十年来の親友のようでもあった。
『部活ぐらい人に気を使わないで――』か。
悔しいけど、確かにこの女の言う通りかもしれへんと思った。
俺は転校する度いつも「どうやって自分を受け入れてもらい、どういうポジションを手に入れるか」ということばかりに気をとられていた。
新しい環境の中で、自分という存在を周りに認めさせることだけに必死になって、自分自身が「楽しむ」なんてことは考えたことがなかったように思う。
例えば新しい環境で、ある程度のポジションを得ることが出来たとしても、周りとのバランスを十分考えて立ち回らないと後々面倒なことになる。
男の嫉妬というのは案外陰湿で厄介なものなのだ。
ありとあらゆることに気を使いながら――俺は誰より上手くやっているつもりで、実は一番余裕がなかったんかもしれん―――。
しずに言われて、初めてそのことに気がついた。