tear-8
俺が玄関の扉から顔をのぞかせた時、雪の背中は遥か遠くで揺れていた。足の裏から根がはえたみたいに、俺の体は身動き一つしかなかった。
そして、彼女の後ろ姿が視界からこぼれ落ちたのを見はからって、俺は扉を閉める。
はあぁ
俺は大きなため息をついた。
…もし俺がもっと早く扉を開けていたら、彼女を引き止めるのは、十分可能だっただろう。そしたら、彼女の気持ちと向き合うこともできた。
けど、それは今の俺と雪にとって正しい道なのだろうか?
せっかく歩き出した雪の一歩を止めてしまうことになるのではないだろうか?
遠く彼方を走る彼女を見た時、どこか安心している自分がいた。
―そうやって新たに生まれた自分の想いに俺は鍵をかける。
それに俺は…
テーブルの上にある、雑誌の山積みからボロボロになった写真を取り出す。
雪と窓から投げ捨てた次の日の朝、気づけば俺は地面を這いつくばって、捨てたはずの写真を必死に探していた。幸い写真が花壇に落ちてて無事だったはいいけど、ドロだらけで、その状態は前にも増して酷かった。
だけど、その一枚からは未だにあの頃の幸せな俺達がうかがえる…。
「…みっともねぇなぁ…。前に進んでないのは俺もじゃないか…」
俺は無意識につぶやいた。そしてしげしげとその写真を眺める。
最高にみっともねぇ…けど…忘れれるわけねえだろ?なぁ、香織…