想-white&black-G-1
幾度か場所を変えながら肌の上を滑る唇は不意に耳の輪郭に触れてきた。
そしてその感触を唇で味わったかと思うと、舌先が耳の穴に差し込まれる。
「あ……っ」
くちゅくちゅと唾液の濡れた音が脳内まで伝わり、その柔らかな感触に刺激に弱い部分を弄られ足の力がふと抜けてしまった。
麻斗さんはそんな私の身体を支えるように腕を回しながら、ゆっくりと地面に座らせる。
「耳、弱いんだね。可愛いな」
熱っぽく耳の側で囁かれ、かかる吐息に肩を弾ませてしまう。
「あ、麻斗さん、もうこれ以上は……」
「そんな潤んだ目じゃ説得力ないけど?」
何とかこの先を押し止めようと声をかけるが、麻斗さんは聞く気はなさそうだった。
これまで何十回と抱かれた身体はすっかり快楽を覚え、その指に触れられるだけで反応するようになってしまった。
その相手が楓さんではなくても、与えられる刺激に反応してしまう自分の身体が浅ましく、嫌になる。
「楓の奴が憎たらしいな。花音がこんな風な顔をするのはあいつのせいだろ?」
両手で頬を包むようにして上を向かせると顔を覗き込んできた。
自分が今どんな顔をしているか分からなかったが、麻斗さんの表情はどこか苛立っているようだった。
見つめ合う体勢のまま、目を逸らそうにもなぜか身体が固まったように動けずにいる。
しばらくそうしていると麻斗さんがどこか切なげに瞳を揺らし、すっと目を伏せた。
「このまま……、奪ってしまえたら……」
自嘲するような表情でそう呟くと、切り替えるように浅く息をついた。
その時、建物自体が揺れるような衝撃と何かが壊れたような激しい音がした。
私からは麻斗さんの陰になっているため一体何が起こったのか分からなくてただ驚くだけで、ただ薄暗かった室内に光が差し込んで明るくなったのだけは分かる。
麻斗さんは動じる様子もなくちらりと後ろに顔を向けた。
そしてあっけらかんとした口調で笑みを浮かべる。
「案外早く見つかっちまったなあ。やっぱ楓は探しもん見つけるのが上手いよ」
「え……?」
一瞬耳を疑った。
だが次の瞬間には間違いであってほしいと身体が僅かに震え出す。
私から手を離した麻斗さんが、立ち上がると目の前にあった壁はなくなり現実は間違いであればいいという望みを打ち砕いた。