想-white&black-G-2
「あ、あ……、楓、さん……」
掠れた声しか出ない。
そこにいたのは、無理矢理扉を蹴破った跡とぞっとするような眼差しでこちらを見下ろしている楓さんだった。
―――知られてしまった。
私の頭の中はただそのことでいっぱいになり、恐怖にも似た感情が渦巻いていく。
何に対して恐れを抱いているのか、そんなことを冷静に判断できないまま……。
怒りとも呆れともつかない、この状況を見て何を思うのか分からない目が怖かった。
「こんな所で何をしている」
楓さんの口からようやく発せられた言葉は淡々と、抑揚のない問いかけだった。
私に浴びせられている視線を余所に麻斗さんが口を開く。
「内緒。っていうかさ、俺が花音をデートに誘ってただけだから」
私を庇ってくれようとしているのか、麻斗さんがそう言うと楓さんの眦が僅かにつり上がる。
「他の男の後をのこのこついて行った挙げ句、それがこの様か」
冷ややかな声で楓さんは自分の首の辺りをとんとんと指差した。
その動作にはっとして首元を掌で覆ったが既に遅い。
楓さんに麻斗さんが付けた痕を見られてしまった。
青ざめている私の様子を見て楓さんは目を眇めると、足早にこちらへ足を進めてきた。
そして私の目の前に立つと冷笑を浮かべる。
「全くお前はどうしようもない女だな。あれだけ抱いてやってるのに他の男を誘うほど足りないのか」
胸をぐっさりと突き刺すような言葉に呆然と彼を見上げた。
違う、と否定したくてもショックが大きすぎて唇が震えて何も言えなくなってしまう。
それに誘ったつもりなどなくても、麻斗さんのキスに感じてしまったのは事実だったせいもある。
「おい、楓っ。花音は何も悪くないって言ってるだろ。俺がやったことなんだから彼女に当たるのは筋違いだぜ」
楓さんの言葉に見かねた麻斗さんが間に入り諫めようとするが、楓さんは鋭い眼差しを向けて吐き捨てた。
「お前のことは後できっちりと言い訳を聞いてやる。俺とこいつの間に入ってくるな」
先程までとは打って変わり、口調に明らかな怒りを滲ませながら麻斗さんの肩を乱暴に押しやった。
そして私の腕を掴むと無理矢理引っ張って立ち上がらせ、みるみる不機嫌そうに眉を寄せると舌を打つ。
「全く、お前というやつは……っ」
忌まわしげに呟いた楓さんが腕を振り上げたのが見えて、本能的に目をぎゅっと閉じて身体を収縮させた。
(殴られるっ……)
腕を掴まれたままでは身体を引くことも逃げることもできない。