背徳の時間〔とき〕B 前編-1
チャプン…チャプン…。
真由花の進む方向に向かって、湯の表面が半円状に波立ち、湯面の静寂が乱された。
真由花は、胸元から下にバスタオルを巻いたまま、岩風呂の中に身体を沈めた。
バスタオルの胸元では、真由花の溢れんばかりの2つの膨らみが、窮屈そうに寄り添い、湯面から顔を覗かせている。
「はぁ――っ、きもちいい。」
真由花は、深く吸い込んだ息を吐き出しながら、ゆっくりと目を閉じた。
「ふぅ――っ。」
ぬるめの湯は、やわらかくしっとりと真由花の肌にまとわりつき、その感触が何とも言えず心地がいい。
とろみのある乳白色の湯は、なめらかな真由花の肌を潤し、淡いさくら色に染めてゆく。
真由花と和気は、とある山里の秘湯に来ていた。
帰る場所のある和気との交際では、2人の交わりのあとには必ず別れが訪れる。
その為、1年半続いている2人の交際だったが、共に朝を迎えたことがなかった。
真由花が22才の誕生日を迎えたこの日、いつも心にそっと秘めていた真由花の願いを、和気は叶えてあげようとしていた。
和気の運転する車で、数時間をかけ山里のこの宿に辿り着いた。
決して華美ではないが、和の風情が漂う中にも、現代風な感覚を取り入れアレンジされた、モダンな外観のこじんまりとした宿だった。
建物の中に入ると、黒光りした太い梁がむき出しの高い天井が印象的で、控えめで可憐な花達があちらこちらにあしらわれ、真由花の来館を歓迎してくれていた。