背徳の時間〔とき〕B 前編-3
しっかりとした的確な筋肉トレーニングを積み、つくりこんである和気の肉体は、匂い立つような男の色気を放っていた。
長身で陽に焼けた和気の肌に、白いタオルがまぶしく映えている。
真由花はお湯の心地よさと、和気の男らしい筋肉の隆起にうっとりと目を細めた。
38才、営業課課長代理、会社では若くして10数人の部下を持ち、忙しくも充実した日々を送る和気だった。
仕事中の和気の顔には、働き盛りの男としての自信がみなぎり、好奇心旺盛で野心的なまなざしが、社内の人達に強い印象を与えていた。
上司には目を掛けられ、部下には慕われる、和気の放つまばゆいオーラは、若い男性社員達から見ても、男としての理想像のようだった。
家庭でもおそらく大切に扱われているのだろう。ふとした時に見せる柔和で優しい横顔は、真由花だけでなく、時には他の女子社員の視線をも釘づけにした。
しかし、今真由花の前に立っている和気の顔からは、仕事中の鋭さは消え、他の女子社員達に接するときの、穏やかで優しいだけの顔でもなかった。
真由花を射止め、その場に動けなくさせてしまうような、和気の妖しい魅力は、真由花だけが知る特別なものだった。
「うん、ぬるめでちょうどいい。」
『そうか。』
和気は満足げに目を細めて微笑むと、真由花のとなりに腰を下ろし湯に浸かった。
「ねっ、最高でしょっ。」
『うん、最高だな。』
和気は真由花を見てうなづくと、しばらく湯の感触を皮膚に浸透させて味わうかのように目を閉じていた。
となりでくつろぐ無防備な和気を見つめ、真由花も幸せな気分に浸った。