手紙 〜side 恵〜-1
―もしも、おまえがいなくなったら?
そんなこと、想像したくもないね。
「おい」
「・・・うー」
「・・・おい、ミュウ!」
「・・・すぴー」
「おまえ、さっさと起きろ!何時だと思ってんだよっ!」
我慢の限界に達した俺は、何度起こしてやっても、惰眠を貪る奴がかぶる布団を引っぺがし、人工の朝日を浴びせてやった。
「うええー眩しいよ〜溶けちゃうよ〜」
コロコロと転がりながら、駄々をこねる、ナマケモノ。
「あほかお前は。こんなんで溶けてなくなったりしねーよ」
とりあえず、布団は没収。
強制的に、睡眠終了。
ああ、なんて清々しい朝、いや、昼間なんだ。
シャッと、カーテンを開けて、太陽の光を部屋に呼び込む。
太陽は、とっくに日に昇っていて、もう天辺は通り越していた。
ここで、一伸び。
横から感じる、恨めしそうな視線はとりあえず無視だ。
「ほれ、ねぼすけ、飯食うぞー」
「・・・ねぼすけじゃないやい、美優って名前があるんだい」
「あ?うっせ!ナマケモノの言葉なんて、聞こえねーな」
「・・・うう、鬼めぐ」
ぼそっと、そう呟いて、逃げるようにそそくさと、洗面所へ急ぐミュウ。
・・・あいつ、後でお仕置きだな。
そう思いながら、作っておいた那須と油揚げのみそ汁を温め直す。
「んまいっ!やっぱり、けーちゃんのニラ玉は最高っ♪」
最高に幸せそうな、ミュウ。
先程までの、テンションとはうって変わり、別人のようだ。
目は覚めたから、ぱっちりとした目に、透けるような白い肌、栗色の柔らかそうな髪の毛。
まるで、お人形さんのようなのだが、実態はおっさんだ。
ニラ玉とプリンをこよなく愛す、萩原美優、21歳。
プリンは可愛い。
だけど、ニラ玉って。
おっさんくせー。
ニラ玉は、特に俺が作るものが好きで、よく作らされる。
俺が作るやつは、卵でとじてるんじゃなくて、フライパン丸ごとで作るから、ほとんどカニ玉みたいな感じだ。
まぁ、どっちかっつーと、卵焼きだな、あれ。
けれど、ミュウは、あれはニラ玉だって、言ってききやしねぇ。
和風ダシをきかせてあって、最後にダシ醤油をかけて、さっと焼く。
香ばしい香りは、俺もお気に入りだ。