ハニードリッパー-1
長蛇の列とはよく言ったもので…
地下のホールへと続く長い列に汗ばんでる自分が何か忌まわしい生き物の一部であるかのように思えた。
やっとの事で入場したホールの中。
薄暗く照明が落とされたその中が音響機材の匂いと共に涼しく感じられたから冷房が入ってる事は分かったけれど、すぐに人いきれの熱気でまた胸元に汗が伝って落ちる。
小さなステージにメンバーが登場して、ドーンと大きな音を上げると同時にホールの中はワァーっという歓声で共鳴した。
幼なじみケイジと再会したのは仕事の打ち上げ的な食事会で立ち寄った居酒屋だった。
[ ミキ?…ミキじゃね? ]
すでに精算して出口に向かう5、6人の一団はそのファッションから音楽をしてる人だって事が一目で分かる。
[ ケイジ?… ]
実に何年ぶりだろうか?
中学の頃までは隣同士の実家で互いに行き来したり、時には一緒に下校したりしていた。
いつしか遠くなって今では互いにどこで何をしているのかさえわからない。
[ 音楽やってるの? ]
文化祭か何かでケイジはみんなの前でギターを弾きながらステージで歌った。
ケイジの部屋に気軽に出入りしてた頃、私もそのギターに何度となく触れてみた。
[ あぁ20、21と2日間…
ライブがあるんだけど、来ない? ]
何だかおかしな風。
何年ぶりの再会だというのにケイジときたら、まるで昨日も会ったかのように自分の都合をいきなり打ち明ける。
こんなところは幼い日からちっとも変わらない…
ケイジは自分の思いつきで遊びを代える。
そして何の懸念もなく電話番号を交換して、今日私はひとりケイジのライブに来てしまっていた。
[ ケイジはいいね
まだ夢を持ってるなんて…
私なんて今ではスーパーの安売り企画係よ ]
[ 安売り企画か…
マーケティングなんとかってやつだな?
俺は…あの頃のまんまなだけだよ ]
その一言にドキッとしてしまったのだ。