ハニードリッパー-2
すっかりいい男になってしまったケイジの中では私との距離さえもあの頃のまんま?…
そんな馬鹿なわけはない。
そんなわけないのに私は…
ケイジの歌を聞きにあまり興味のないロックのライブに来てしまったのだった。
ライブには似たようなバンドがいくつか参加してて、ここに集まったみんながみんなケイジのファンってわけでもなさそうだけど、前の方でキャーキャー言ってる女の子たちは少なくとも紛れもなくケイジのファンなんだろう。
20人や30人はいるようだった。
小一時間、私はただ近くて遠い現在のケイジを見つめていた。
ケイジのバンドが引き上げると私もホールを後にする。
ロックも嫌いじゃないけど、目的がすんだら付き合うに値しない。
ホールを出ると街の喧騒がずいぶん静かに感じられ、私は短時間にずいぶん疲れてしまったような気がした。
何だか寂しい…
ただの幼なじみってだけで安易に電話番号まで交換した今の私と夢を見続けるケイジとの距離は実家が隣同士で勝手に出入りする距離なんかとはほど遠い…
私の疲労感は嬉しさと寂しさがあのライブのようにごちゃごちゃに入り混じった心境によく似ている。
しばらく歩くと電話の着信音に気がついた。
ケイジからだ…
[ ライブ…良かったわ ]
[ ってか…どこにいるの? ]
[ えっ?…駅の近くかな? ]
[ 何で? ]
[ 何でって、何で? ]
しばらくしたら、さっきステージに立ってた衣装のままケイジは迎えに来てくれた。
私の中のライブはますます激しさを増していく。
[ 楽屋にくるかと待ってたのに何で帰ってんだよ? ]
…知らないじゃないそんな事。
幼なじみとはいえ、ふらりと見に来て勝手に楽屋になんて押しかけられるわけないし、そのつもりもなかった。
[ フィナーレにもう一回出るからさ…
ちょっとここで待っててくれよ ]
私を楽屋に引き入れたまま、他のメンバーに紹介もしてくれないし他の出演者たちもそこで出番を待ってたり雑談してたり…
私は居場所がない。
本当にあの頃とちっとも変わらない。
そして、そのペースのまま私はケイジに抱かれてしまうのだった。