ネコ系女 #5-9
「ノエルー。ノエルー。ノンちゃーん。どこー?」
かさりと動くものがあればそれを追いかけ、あぁ違ったと何回も落胆した。
額に汗が滲み、白いブラウスに泥が目立ち始めた頃、何かが足元に擦り寄ってきた。
「ニャァァ…」
「あっ、ノ、ノエル!?もーっ!探したよ!」
私はノエルの腋に手を入れて抱き上げた。腕の中でくるんと丸まる。
ノエルは目を泳がせて何かに怯えているようだった。
「もしかしてあんた道に迷った?ったく…。一人で脱走するからこうなんだよ。分かった?」
「ニャア」
ノエルは一度鳴くと私の胸に顔を埋めた。
「ホントに分かってんの?まぁいいや。お家帰ろうか」
私はケータイに登録された住所を頼りに、タマの家を探した。
ここだ。
三階建てでなかなか綺麗な外装のアパート。アパート程の背丈のある広葉樹が寄り添うように植わっている。空室有りの看板にはペット可の文字。
どうやらここの二階にタマの部屋があるらしい。
『☆OKITA☆』
という無駄に可愛いプレートが掛けられた部屋のチャイムを押した。
「…はい」
直ぐに暗い声がしてドアが開けられた。
伏し目がちにドアから出てきたタマの目の前にノエルを差し出して
「ただいまっ!!」
と姫代がやっていたようにアテレコをした。
するとぱあぁっとタマの顔が明るくなっていき
「ノエルッ!朝希っ!」
私もろとも抱きすくめた。
「良がったぁぁ…!うえぇぇぇ…!ホントに良がったぁぁ…っ!」
涙と鼻水を流してオイオイ泣くタマの腕にノエルを抱かせると、私は「じゃあ」と言ってくるりと背を向けた。
「グズッ…ちょっと待って!」
ぐいと手首を捕まれ引き戻される。
「まぁまぁ、家に寄っていってくださいな。ズビッ」
と、そのまま家の中に連れてこられ、今に至るのだが…。
気まずい。
「何飲む?麦茶?緑茶?俺は牛乳飲むけど。あっ!温かい方がいい?えっと…コーヒー、紅茶、レモネード、あとココア。どれがいい?」
「冷たいカフェオレ…がいいんですけど」
【ネコ系女は選択肢外】
「カフェオレ?オッケー、今作るね!」
非常に気まずい。私が一方的に気まずい。
だって私は殴ってるし寄るなって言ったし電源切ったし…。
誰でもキレるようなことをやってるのに、タマはそんなこと忘れてんじゃないかってぐらい普通に振る舞っている。
何でそんなこと出来んの。