ネコ系女 #5-7
『沖田 真央』
ドクンと心臓が鳴った。
あの日削除出来なかった名前。明日にしようと先伸ばしにしていた名前がディスプレイに表示されていた。
しばらくそのまま、固まってしまった。
その間も早く出てくれと言わんばかりに、けたたましくケータイは鳴り続ける。
ドクンドクンと鳴る心臓を押さえるように鼻で荒い呼吸をして、私は電話に出た。
「…はい」
『どうしよっどうしよっ!』
電話の向こう側のタマは何かに必死になっていた。外にいるのか車の音や、人の声がする。
「どうしたの?」
『いなくなっちゃったんだよっ!今探してんだけど…!』
それと本人が走っているのか声が弾んでいる。
『全然見っかんなくて…俺が窓開けっぱなしにしてたから!』
「誰がいなくなったの!?」
『ノエルが!』
「…え」
タマの電話から聞こえる車の音が多くて、タマの家の近くは車通りの激しいところなんだということが分かった。
不安が過る。もしかしたらノエルは…。
「ねぇタマ、私も…」
『今ももちゃんも探してくれてんだけど…!!』
すぅっと感情が退いていくのが分かった。
ノエルもタマも、もう私に関係無い。
「じゃあいいじゃん」
『えっ!?朝希っ、どうしよ?どこにいるかな!?』
「知らないよ!私に電話してくんな、じゃあね!」
一方的に電話を切る。
何か言っていたみたいだけど、私の知ったことじゃない。
ずっと二人で探していればいい。
また、タマから電話がかかってきた。
私は電話を切って、そのまま電源を落とし、店の中に入っていった。
私は進められるままに酎ハイを飲みまくった。
「はい、イッキイッキ」
飲みたい気分だったし丁度いい。
だけど一つ問題がある。
【ネコ系女はすっごい酒に強い】
私、酔えないのだ。
顎髭が私を酔わせようとしているのも気にくわない。
「あのさ、あの後どうなったの?」
「あの後って?」
「ほら、友達と帰ったじゃん」
顎髭は烏龍茶を一口飲んでから私にニッコリ微笑んだ。