ネコ系女 #5-4
「うーん、そうだね」
「じゃあ、ご飯でも食べにい」
「うーん、やっぱやめとくわ!」
え?
「もうすぐももちゃんが帰ってくるんだよ」
タマが眉を八の字にして笑った。
「帰ってきた時にご飯出来て無いとももちゃん不機嫌になるんだよ。何で出来てないのよ!って」
その笑顔がこの上なく憎たらしく思えた。
「ご飯食べに行きたいけど、そろそろ帰らなきゃ。この前も怒られたばっかなんだ」
ムカつくし、悔しいし、訳が分からなくなってきて
「普段はすっごくいい子なんだけど、ちょっとワガママさんなんだよね。まだ一年ぐらいしか一緒に暮らしてないから何とも言えないけど、もしかしたら」
バゴッ─。
気がついたら私はタマの頬を殴っていた、グーで。
「ぅえ!?」
私の力が弱くふっ飛びはしなかったけど、やはり痛かったのか頬を両手で押さえて、驚いた様子で私を見ていた。
「この私を…よくも、よくも!」
「朝希?」
「馴れ馴れしく名前で呼ばないでよ、バカっ!あんたなんか私に釣り合わないんだよ!」
まだタマは理解出来てないみたいでパチパチ瞬きをしている。
「そんなに彼女大事なら最初から期待させんなっ!!あんたの優しさとか正直ウザい!いらない!される度にこっちは辛くなんのっ!女心分かってから私に近付けや、この、ボケナスがぁ!」
私はタマに背を向けずんずんと歩き出した。
「ね、ちょっと待って!」
途中タマに肩を捕まれたが
「二度と寄んなっ!!!!」
一喝してその場を後にした。
【ネコ系女は手が早い】
右手の甲が痛い。薄い頬肉越しに歯に当たったらしい。
初めてグーで殴った…。殴る側も痛いんだ。
でもあっちはもっと痛かったよね…。
はぁっとため息を吐きながら私はベッドに雪崩れ込んだ。
部屋の電気は点けてない。真っ暗な方が落ち着けたからだ。
私は顎髭に連絡を入れて、来週の月曜日に会おうということになった。
その日は事務の宇崎が接客に入るということになって、たまたま私が休みを貰えていた。
そして、顎髭に連絡を入れたことによって新たな発見もあった。
「ん?」
私には身に覚えがない。だけどそれは実際に私の電話帳に登録されていた。
『沖田 真央』
アドレス、電話番号、誕生日に住所まで…。
あいつ、私が寝てる隙に…!?
私は削除しようとケータイを操作した。