由里子と先生3-4
退院後は毎日放課後、リハビリのために由里子と共に病院に通った。
2ヵ月間動くことが許されなかった神木の身体は、筋肉が落ち、関節がこわばり、まるで誰か他人の動かない身体を身にまとっているようだった。
まだ左足に痛みを抱えた状態でのリハビリは、男の神木でさえ悲鳴をあげるほど辛いもので、近くで見ている由里子の方が泣きだしてしまうほど、過酷なものだった。
しかし神木は自分を支えてくれる由里子の愛情に答える為にも、必死に自分の動かない身体と闘った。
この頃の神木は自分の足で歩くことができず、由里子が登下校や通院も車椅子で付き添うことが多かった。
神木にとって、この頃の由里子は文字通り身体の一部になっていて、なくてはならない存在だった。
リハビリが順調に進み、それからひと月後には松葉杖で歩行できるまでに回復した。
偶然由里子の通学途中の駅の近くに、神木が住んでいたこともあり、松葉杖をつく神木にそっと寄り添い、登下校をする姿が、周囲の仲間達にもたびたび目撃され、仲間達もそんな2人を温かく見守っていた。
それからしばらくして、神木の松葉杖も取れ、チームメイト達が復活を祝うパーティーを開いてくれた。
由里子も参加していたそのパーティーの場で、『付き合って欲しい。』と神木は由里子にサプライズの告白をした。
由里子も穏やかに微笑み、神木の告白を快諾した。
由里子と神木が出会ってから4ヵ月後の夏のことだった。
神木と由里子の付き合いが公認になっても、2人きりになる機会は登下校の時くらいで、ほとんどがサッカー部の仲間達と一緒ににぎやかに過ごしていた。
それでも由里子は神木が以前の明るさを取り戻し、みんなのムードメーカーとして、ここに帰ってきてくれたことが嬉しかった。
時々サッカー部の部室で神木と2人きりになった時など、神木の方から由里子に軽いキスをすることがあったが、神木のサッカー以外のことに奥手な性格も手伝ってか、2人の関係はまだその先に進む気配はなかった。
それから季節は流れ、由里子と神木はそれぞれが2年と3年に進級した。
神木はその頃には完全復活を遂げ、正式にサッカー部にキャプテンに復帰した。
由里子と神木との関係が順調で、充実した幸せな毎日を送っている時だった。
この学校に佐々が赴任し、由里子の担任になった。
この頃の由里子はまだ、佐々の一方的な想いには気付いていない。
しかしこの数ヵ月後、由里子と佐々の間に一度きりの約束のキスが交わされてしまう。
そして何も知らない神木を裏切る、由里子と佐々の関係が、そこから始まってしまう。