……タイッ!? 第三話「診察しタイッ!?」-1
期末テストも無事に終り、夏休みも今日で三日目。外ではセミが喧しく鳴く中、紀夫と里美、そして理恵はクーラーの効いた図書室で涼んでいた。
女子陸上部のグラウンド使用は午後からとなっているため、朝は寝坊ができる。夏休みだからこそ許される堕落の日々を満喫しようとしていた紀夫をたたき起こしたのは、理恵の「オハヨーコール」。
やはりというべきか理恵はしっかり赤点をとっており、午前中は補習が待っていた。
それだけなら彼女個人のことなのだが、彼個人のスペックを考えれば、理不尽なお願いであろうと断れるはずもなかった。
「……でね、こうなるわけ。わかった?」
「えっと、うん。なんとなく」
「なにがこうなるわけ、うん、なんとなく……よ。まったく、見てるほうが恥ずかしくなるわ」
数学のノートを開きながら指導する紀夫とされる理恵を見つめているのは里美の醒めた視線。彼女は特に補習の必要もなく、かといって図書館に用のあるタイプでもない。
何故いるのかというと、昨日の部活に紀夫と遅刻魔の理恵が一緒に居たことを勘ぐってのこと。ようするに乙女の勘が働いたのだ。
「サトミン怒ってる? っていうか嫉妬? うふふ、やいてるやいてる〜」
「はいはい、やいてるやいてる。うんうん、仲良きことはうらやましいわ〜っと」
ぶっきらぼうに言う里美は以前のような突っかかる刺々しさがなく、笑い飛ばす余裕をみせる。
「里美さんも課題をやったら? 俺もいるし、わからないことがあったら一緒に……」
言葉を遮るのは里美のお気に入りのシャープペン。鼻先をチクリと刺された紀夫は怯むように鼻を押さえる。
「紀夫、君さあ、頭いいからって調子に乗ってない?」
何故か紀夫には刺々しさがあり、水を向けられるとつい反論じみた返しかたになる。
「別にそういうつもりは……」
「まあいいわ。時間がもったいないし……」
鞄から課題を記したノートを取り出し、ペンを回す里美。けれど威勢のわりに眉間に皺が寄り始め……、
「えっと、参考までに聞くけど、紀夫ならこの問題をどう解く?」
「ん、それは……こうかな。ほら、ここの赤線引いた場所、北センが重要とか言ってた場所。ここを応用すれば……」
「ほうほうなるほど、さすが……ね。っていうか、あたしもそう思ってたけどさ」
あからさまな強がりに「クスス」と笑う理恵。里美がそれに気付き、じっとにらみ返せば「サトミンこわーい」とのたまい、紀夫の背に隠れる仕草をする。もっとも彼の小さな背中では頼りがいもないというもので……。
「そんじゃ、またあとでねー」
午前中の補習授業に出るべく一人図書室を後にする理恵。紀夫は手を振るものの、背後からは冷たく刺さるような視線がある。