……タイッ!? 第三話「診察しタイッ!?」-8
「それじゃ、するよ……」
石段を少し上がれば天下の往来。しかし、夏の日にしては早い夕暮れが二人を隠している。
「……ん、……あん」
ふくらはぎを揉みながら舌を痣にそって這わせる。
塩の味がする。
シャワーを浴びていないせい。
細いながらも筋肉のある足は弾力があり、それを楽しむために歯を立てたくなる。けれどそれでは別の痣をつけることになる。
自分の欲望の本末転倒具合に自嘲しながらも、紀夫は彼女の脚を唾液で汚していた。
「ふぅ、あぁ……ん。ん、んふふ……なんか興奮するね……」
「ああ……」
「あ、今あっちのカップルキスしてた……」
「へえ……はむ、へろろ……んちゅ、ちゅぱっ……」
塩気が引くと、酸味が目立つようになる。どことなく汗臭く、苦みがあり、なのにやめられなかった。
「ん、もう、ノリチン、ちょっとはすん止めを楽しもうよ」
つむじの辺りをゴシャゴシャとかき回されたので顔を上げる。
「我慢なんかできない」
前歯を押し付けるようにして愛撫すると別の痕が着いてしまう。けれど紀夫はその数を増やす作業に熱心だった。
「ん、んぅ……、ねえ、抱いてよ」
「うぇ?」
突然の要求に思わず顔を上げる。
西の空は青と朱が混ざり、理恵の表情は影で見えない。どんな表情で自分を誘っているのだろう。それが気になった。
「今エッチなこと考えたでしょ。でもエッチダメだよ。ただ抱きしめるだけだ」
「そっか……」
心の比率ではがっかりする気持ちが半分以上を占め、それが露骨に表れるのが情けない。
石段に座りなおし、理恵の両脇に手を回して膝の上に乗せる。あとは彼女のほうから身体を被せてきた。
フンワリした花の香は季節はずれの金木犀。そして汗のすえた匂いが混ざり、お世辞にも心地よいとはいえなかった。
「んぅ……」
それでもきつく抱きしめ、その芳香を吸い込んでしまう彼がいた。
「やあだあ、そんなに鼻息あらくしないでよ……恥ずかしい」
肩に添えた手をぎゅっと握り、胸元の辺りで呟く理恵。彼女はそれを嫌がる風も無く、この擬似恋人同士の抱擁を楽しんでいるように見える。
「これでいいの?」
下半身の隆起が収まらない紀夫は不満気に問うが、理恵は二度三度頷くだけで動こうとしない。
触れ合う肘や膝、太腿はその度にびくんと跳ねる。それも周囲の闇が深くなればおのずとこすり付ける格好になる。