……タイッ!? 第三話「診察しタイッ!?」-16
性格もなかなかの女傑らしく、聞いた話だと不登校気味で常に保健室通いだった生徒と向き合い、復学に成功させたという実績を持つ。
他にもサボり目的で仮病を使う男子にはきつく、女子にはそれなりにと状況を見定める眼力もあった。
「ならよし」
とはいえやはり女性であり、素直に頷く綾に見せる笑顔は目尻がしっかりと下がり、笑窪すら見える可愛らしいものだった。
そして翻る白衣から見えるタイトなスカートとムッチリした生脚。年こそ不明だが、年頃の男子達の格好の……。
「先生、菅原先生、大変です! プールで事故です!」
いきなりドアが開くと半裸の男が飛び込んできた。
「何? 溺れたの? それとも怪我?」
一瞬どころか数秒見ても不審者にしか見えない闖入者だが、ただの水泳部員らしい。
「転倒です。鼻打ったのかなんかでかなり……」
「わかった、すぐ行く」
裕子は救急セット片手に保健室を後にする。
その様子を二人はしばし茫然としながら見ていた。
「すごいね、菅原先生」
「そうね……」
未だふらつく綾だが、アイスノンをどかすとベッドから起き上がろうとする。
「日吉さん、駄目だよ寝てないと」
「いんだよ。っていうかまだ練習……」
「何言ってるのさ、今は寝てないとだめ……!」
起き上がろうとする綾と寝かせようとする紀夫の攻防が始まるも、ある程度体力の回復した綾と拮抗してしまうのが情けない。
「駄目だよ。俺はマネージャーなんだから、いう事を聞いてよ」
「何がマネージャーだ。雑用係のくせに……」
クーラーが効いているとはいえ、設定温度は二十九度。ちょっとでも動けば汗は玉をなし……。
「ん、あ、駄目だ、離せ!」
何かに気付いた綾は紀夫を突き飛ばし、自らもベッドに尻餅をつく。
「な、なに? どうかしたの?」
「いや、悪い……。その、なんでもない」
「うん、まあいいけど、でも、ゆっくりしていってくれないかな? 菅原先生に怒られちゃうよ」
「ああ、それは困るな……」
アイスノンで冷やす先を後頭部からオデコに変え、にがにがしげに呟く。
「日吉さんはどうして皆といるの嫌がるの?」
「別に嫌がってなんてないさ。ただ、和気藹々っていうの? そういうのが苦手なんだよ」
「嘘。理恵さんから聞いたけど、昔は皆とお好み焼き屋に行ったんでしょ?」
理恵の名前を出すと、綾は小さく舌打ちをする。紀夫はそれを聞き逃さず、何か裏があるのではないかと言葉を捜す。