……タイッ!? 第三話「診察しタイッ!?」-15
「もう、しょうがないんだから……」
今に始まったことでもない部のまとまりの悪さに頭を悩ましながらも、久恵は今すべきことをなそうと筋トレを始めた。
「……ねえサトミン、アヤッチ大丈夫かな?」
「……大丈夫でしょ? あの子だって陸上長いんだし無理するようなことはないでしょ。それよか……」
里美が気になったのはどこか落ち込む風のある久恵の丸まった背中。
美奈子が言いかけた言葉はきっと自分と彼女も知っている。
――だって遅いしさ。
多分そんなところ。
**――**
「まったく、水も取らないで練習するなんて……」
擁護教員の菅原裕子はベッドでアイシングを受けている綾に呆れ気味に呟く。
「でも……、水分取ると……、疲れやすいから……」
「そんなの十年前の根性論よ。今はある程度水分を補給しながらするの。それに、今日みたいな日はランニングしない。当然でしょ?」
「気合は……重要っす」
前近代的体育会系の綾は精神力の重要性を説く一人。もっとも上下関係に疎く、部では浮いている方。
「まったくこの子は……。えっと、マネージャーだっけ? 君もしっかり指導なさいよ。こんなことじゃ練習で身体壊しちゃうから」
「は、はい」
とばっちりで叱られる紀夫は平謝りをするばかり。
綾をここまで運んできたのは彼だった。彼がいつものようにタオルを干していると、既に乾いていた一枚が風に煽られプール脇まで飛ばされてしまい、それを追いかけていくと、更衣室の日陰で座り込む綾を見つけたのだ。
本来なら体育館で筋トレをしているはずと思っていた彼も当然驚いたものだった。
彼女は肩を借りるのを極端に嫌がっていたが、消耗しつつある身体はそれを拒めず、半ば無理矢理な格好でつれて込まれた。
「しばらく頭冷やしてなさい。勝手に動いたら駄目よ」
「でも……」
「でもじゃない!」
「はい……」
ぴしゃりと言い放つ裕子は反論をさせない力があった。
大人しくなる綾を見て、紀夫はコレぐらいの勢いというか威厳があれば部をまとめられるのだろうと思いつつ、久恵やのん気な愛理には無理と知る。
陰のある久恵が月のような存在なら、裕子は太陽。鼻が高く、まっすぐな瞳と太目な眉。女性に対する比喩としては不適切だったが精悍なタイプだった。