やっぱすっきゃねん!VJ-1
空の青さは強い日差しのおかげで色を失い、白くくすんで見える。
そして夕暮れは、一枚づつベールを重ね合わせるように空が徐々に暗くなっていく。そんな時刻、澤田家は楽しい団らんの一時を過ごしていた。
「さあ、出来たわよ」
テーブルに置かれた、ホットプレートの蓋が取られたと同時に熱い湯気が天井に立ち昇った。
チリチリという脂の焼ける匂いが食欲をそそる。加奈の得意料理であるニラ餃子。
ニラ、キャベツ、ショウガ、豚肉だけで、ニンニクを使わないのが特徴だ。
「いただきま〜す」
ホットプレートにズラリと並んだ餃子に、皆の箸が一斉に伸びる。受け皿の酢しょうゆにつけてひと口食べ、納得の笑顔を見せた。
「やっぱり母さんのは最高だねッ」
修はそう云うと、3つほどまとめて受け皿に取った。
「たくさん作ったんだから、いっぱい食べてよ」
ニラと豚肉でビタミンBを補給する、夏バテ予防を考えた澤田家定番メニューだ。
そう云われて修は、次々と餃子を口に運ぶのだが、少しいつもと違うカタチをした餃子が目に止まった。
「なんだ?これ…」
箸で取ってみると、明らかにいびつなカタチ。閉じた皮の部分の折目が均一でない。
修は──はは〜ん─というしたり顔で姉の顔を見た。
「これ、姉ちゃんが作ったろ?」
見せられた餃子に、佳代は顔を赤らめた。
「うるさいなあッ、初めてだからしょうがないでしょ」
「でもさ、これはないでしょ」
再び見せられた餃子は、餡が皮からはみ出している。
「それは…一番最初で、量が分からなかったから」
「最初がこんなじゃ、まだまだだね」
そんな上から目線な口ぶりに、佳代はカチンと来た。
「だったら母さんが包んだ方を食べな。こっちのは私が食べるから」
「そんなに怒んなくったって」
「あんたは男のくせに云うことが細かいんだよッ」
テーブルの両サイドが徐々にエキサイトし始める。些細なことが原因の姉弟喧嘩。
「だって…」
修が何かを云いかけた時、すっと箸が伸びていびつな餃子を口に運ぶ姿が見えた。
「…うん、全然変わらないで美味いな」
父親、健司は娘が作った餃子を嬉しそうに食べていた。
佳代と修は、そんな姿を見せつけられて白けてしまったのか、互いに顔を見合せると、
「もう止めよ」
「そだね」
云い争うことに、バカバカしさを覚えたのだろう。以前なら構わずやりあっていた。というより、佳代が一方的に云い勝っていたのだが。
再び箸を伸ばして食べ始めた。互いに笑顔を浮かべて。
そんな子供たちの成長に、加奈も目を細める。功労者である健司の方を見ると、彼は何事もなかったかのように食事を続けていた。