やっぱすっきゃねん!VJ-9
ピッチャーの軸足に力が込もった。乾はそれを見逃さなかった。
右足のスパイクが地面を深くえぐった。身体が前傾になり、左足は大きく伸びる。左腕が宙をかいた。
ボールが放たれた。ファーストとサード、それにピッチャーもホームへ猛然とダッシュする。
手首と指先をねじった球は、おおきな弧を描いてホームへ近づいていく。
その瞬間、足立はバットを引いた。ファーストとサード、ピッチャーの足が止まった。
足立は思い切りバットを空振りする。──乾の援護のために。
キャッチャーは地面スレスレにボールを捕り、セカンドに送球したが乾は悠々と2塁を陥れていた。
キャッチャーの送球で、低いボールが1番タイムロスになる。
「ナイスランッ!貴士ッ」
今度は、声援と拍手が青葉中から上がった。
その後、足立は4球目を打ってセカンドゴロになった。
ミートの上手い彼らしい、進塁打を放ち乾を3塁に進めた。
3番淳が右打席に入る。外野フライでも先取点の状況。
初球は外角低めのストレート。2球目も同じコースながらボール2個分ほど外してきた。
──そろそろ内か。
3球目。淳の狙い通り内角の真ん中にきた。彼は思い切り振り抜いたが、スライダーだったためにタイミングがわずかにズレた。
飛距離十分の打球がレフトに上がった。が、ポール際から大きく左に逸れた。
「ああ〜ッ、おっしいなあ」
ベンチからのり出した身体が、嘆き声とともに力なく戻る。
キャッチャーは間をおかずに次のサインを送った。
4球目。ピッチャーは3塁ランナーを肩越しに目をやり、早いモーションから左腕を振った。
ポールは目線の位置で急激に減速すると、ひざ下へとゆっくり落ちてきた。
──くそッ…。
タイミングを外された淳は、前のめりになって空振りした。
「似てるね。省吾に…」
「ああ。あのカーブは厄介だ」
佳代と直也は、東邦中のピッチャーと稲森を重ね合わせていた。
淳はバットをひと握り余らせた。キャッチャーはそれを見てサインを送った。
ピッチャーがモーションにはいる。キャッチャーは構えを外角低めに変えた。
5球目が投げられた。
キレのあるストレートが伸びてくる。淳は完全に裏をかかれた。
──くそッ!
淳はなんとかバットに当てようとグリップから右手を離し、左腕をいっぱいに伸ばす。
鈍い金属音が鳴った。打球はファーストの頭上に飛んだ。
ファーストはバックしながらジャンプする。身体が浮き、ミットが打球目がけて伸びていく。
だが、ポールはミットの先端に当たってグランドに落ちた。
乾は打球を確認してからホームを踏んだ。
「よっしゃーーッ!先取点が入ったァ」
白い歯を見せて帰ってくる乾を皆がハイタッチで出迎える。先制出来た喜びに沸き立つ青葉中ベンチ。