やっぱすっきゃねん!VJ-8
「バッターラップ」
8球の投球練習を終え、乾は左打席に入り、慎重に足場を固める。左足を10センチほど開き、ボールの軌道を見やすく構える。
「プレイボールッ!」
主審の右手が上がると同時に、球場にサイレンが鳴った。
東邦のキャッチャーがサインを出す。ピッチャーは軽く頷くと初球を投げ込んだ。
内角のストレート。
乾はタイミングを合わせ、上から思い切りバットをぶつけた。
カン高い打撃音。芯で捉えた打球は低い軌道でライト前にバウンドした。
まだ、サイレンの余韻が球場を包んでいた。
「ヨシッ!ランナーが出た」
出ばなを挫かれたピッチャー。2番足立は、打席に入るなりバントの構えをみせる。
ピッチャーはセット・ポジションに構えた。乾もゆっくりとベースから離れる。──間合いを測るため、いつもより30センチ狭く。
キャッチャーは──走ってくる─と、考えサインを出す。
ピッチャーは、ゆっくりと右足を踏み出し1塁側にボールを投げた。
乾は素早く1塁に戻る。
──なるほど。タイミングを測らせないつもりか。
ファーストがピッチャーに返球する。乾は再びベースを離れた。
──さあ、次はどんな牽制だ…。
ランナーとコーチャー。4つの目がピッチャーの動きを凝視する。
ピッチャーは大きく息を吐き、セットに入るとクイック・モーションからボールを放った。
内角高め。
乾は数歩ダッシュしてタイミングを測る。足立はバットを引いて見送った。
キャッチャーは中腰の体勢でボールを捕った。
「バックッ!」
ファースト・コーチャーが叫ぶ。乾は声に合わせて1塁に飛び込む。キャッチャーは矢のような送球をファーストに投げた。
ひとつの場所で互いの気持ちが交錯する。
「セーフッ!」
「ふい〜ッ、ヤバかったァ」
乾の顔に苦笑いが浮かんだ。対して相手バッテリーは悔しそうだ。
「何やってんだ、あいつ。慌てやがって」
今のプレイに、青葉中のベンチから声が上がる。永井は再びサインを送った。
2球目。キャッチャーは、パントを警戒して内角低めのカーブを要求する。ピッチャーはセットポジションから、グラブの中で握りを変えた。
乾とのにらみ合い。──イニシアチブを取りたい、取らせまいとする思いが飛び交う。