やっぱすっきゃねん!VJ-7
「ハツラツとしてる。一昨日と全然違う」
笑顔でキャッチボールを繰り返す佳代に、有理がぽつりと云った。
「そりゃそうだよ。選手として出るために必死にやってきたんだから」
尚美自身、佳代の頑張りに引っ張られるようにバスケットに力を入れた。──最後の夏だから。
しかし、結果は3回戦敗退に終わった。
だからこそ、佳代には全国に行ってもらいたかった。
2人は静かに、練習風景を見つめていた。
気温はすでに30度を優に超えている。すり鉢の底にあたるグランドは40度近いだろう。
そんな悪条件の中で、選手達は高い緊張をキープしなければならない。わずかな気の緩みがミスにつながる。
レギュラー達は短い時間でキャッチボールを終ると、慌ててベンチに戻り、バットを取ってベンチ前で素振りを始めた。
佳代達控えはペンチに戻り、レギュラーのためにスポーツドリンクをコップに注ぐ。──スピーディーにことを運ぶために。
練習1時間前からの水分補給。それに、試合開始1時間後からのブドウ糖摂取。──すべてはパフォーマンスを維持するためにと一哉がアドバイスした。
「練習止めぇーーッ!」
先発メンバーが素振りを止めてベンチに戻る。皆が用意されたコップに手を伸ばして喉を鳴らす。
永井による最終的なミーティングが行われた。ピッチャーの特徴やキャッチーのリードの傾向など、すでに選手達の頭にあることを再度確認させる。
「この大会で1番の正念場だ。気を引き締めてかかれッ!」
「ハイッ!」
選手達の目が、闘う者の目に変わった。
先攻は青葉中。1番乾と2番足立はヘルメットと手袋を着けた。
双方の選手達がベンチ前に整列する。主審の合図を待っていた。
バックネットの中央から、やや3塁寄りに設けられた扉が開き、中から4人の審判が現れた。
ゆっくりとした足どりでホームベース後ろに並んで立ち、双方のベンチに目をやると右手を上げた。
「集合ッ!」
審判の号令。
選手達の緊張が一気に高まった。
「いくぞォーーッ!」
達也の声に合わせ、皆が低く身構えると一気にホームベース目指して駆け出した。
ベースを挟んで両チームが相対する。互いが目に思いを込めてにらみ合う。─ーすでに試合は始まっている。
「ただいまより、青葉中対東邦中の試合を始めます。お互いに礼ッ!」
帽子を取り、頭を下げると青葉中はベンチに、東邦中はグランドに散った。
東邦中はエースピッチャーがマウンドに。165センチという小柄な左腕ながら、バネのあるモーションから投じられるボールは、速くキレがある。
乾や足立は、投球練習に合わせてタイミングを測った。