やっぱすっきゃねん!VJ-6
「水分を摂って階段下に整列」
選手達は、クーラーボックスのスポーツ・ドリンクをひと口飲み、階段下の右隅に寄って待機した。
1試合目が終わるのを今か々と思いながら。
「ねえねえ、1試合目ってどことどこがやってんの?」
沈黙が苦手な佳代は気をまぎらわせるため、となりに居た川畑に訊ねる。
「知らないんですか!?」
「うん、知らない」
この云い様に、川畑は呆れた。
「精華中と入部中ですよ。一昨日、試合を偵察しましたよねえ?」
「あ〜、そう云えばそうだったねえ」
「そうだったねえって…」
「私、ずっと観客席だったから暑さでボーッとしてたんだよ」
一昨日まではそんな余裕はなかった。
「でも精華中って強かったっけ?」
「いや、ウチと練習試合しましたけど大したことなかったです」
「それが準々決勝まで残ったの?」
ちょうどその時、試合終了を告げるサイレンが鳴った。
それから、しばらくすると校歌が聴こえてきた。
「ちょっとッ!」
佳代は思わず声が上ずった。川畑にはその理由が分かった。
「精華中が勝ったみたいですね…」
練習試合では、大した印象もなかったチームがベスト4とは。正直、佳代には信じられない。
「お喋りを止めて。そろそろ出て来るわよ」
葛城の指示に従い、選手達は荷物を持ち上げた。
合わせたように精華中の選手達が階段を降りてくる。
互いがすれ違う。精華中の選手達は、一様に青葉中の選手達を睨み付けていく。
そして通り過ぎた。最初に口を開いたのは直也だ。
「あいつら…明日は大差で負かしてやるッ!」
前にいた達也が振り向いた。
「明日よりも、今から始まる試合に集中しろよ」
その顔は笑っている。──困ったヤツだ─と云いたげに。
階段を上がり、数メートル進むとベンチの入口だ。長さ10メートル、奥行き4メートル。
長さ8メートルほどのベンチイスが3列に並んでいる。
選手達は、飲み物のや保冷剤の入ったクーラーボックス、各々の荷物を1番後ろのベンチに置いた。
「バッテリーはブルペンに。他はキャッチボールの後、素振りをやれッ」
準備を終えた者は、次々とベンチを飛び出して行く。
「川畑、行くよッ」
「ハイッ!」
佳代はライトのファウル・ゾーンに向かって走る。川畑が後から付いて行く。
「アッ!出て来たッ」
1塁側観客席には、野球部員に生徒会、学校OBなどの学校関係者150人ほどが、ひと塊となって応援準備を進めていた。
そんな中に尚美と有理の姿もあった。制服に頭からタオルを被ったいでたち。──痛いほどの日射しがそうさせた。
2人は佳代の姿を目で追った。