やっぱすっきゃねん!VJ-5
翌朝。
学校のグランドに並ぶ野球部員達。その前に、監督永井とコーチの葛城が立っていた。
「…では、ベンチ入りメンバーを発表する」
永井はそう云うと、尻のポケットから手帳を取り出した。
「1番サード乾、2番レフト足立、3番センター橋本…」
呼び上げられた者の顔は一瞬緩むが、すぐに真顔になる。部員の代表として、思いを胸に試合に挑むからだ。
「 6番ピッチャー稲森、7番セカンド森尾、8番ショート秋川9番ライト加賀」
3年だけで固めたレギュラーポジション。事実上の決勝と位置づける永井の意気込みが伺える。特にライトのポジションなど、レギュラーの佳代、控えの川畑ともに選ばれていない。
「次にベンチ入り7名を発表する。10番川口、11番中里、12番下加茂、13番川畑…」
──今日もダメか……。
控えピッチャーにも上がらず、消沈する佳代。だが、先日までの暗さはない。まっすぐに永井を見ていた。
15人が選ばれ、いよいよ最後のひとり。
「…16番澤田」
心臓が高鳴った。佳代は反応出来なかった。
「澤田ッ、いないのか」
「は、はいッ!」
慌てて返事をすると、永井はにっこり笑った。
「藤野コーチから聞いた。おまえは休みの間も練習していたと。だから今日は期待してるぞ」
「はいッ、ありがとうございます!」
賭けだった。
今日、使ってダメならピッチャーとして使わないと、心に決めていた。そう、一哉にも伝えてある。
佳代は当然、大人達の思惑など知る由もない。ただ、選ばれたことに対して──精一杯やろう─と思った。
「アップやめろッ。球場入りするぞ」
東邦中との対戦は2試合目だ。
8時半に到着した青葉中は、直ちに試合に向けてアップを開始した。
ランニングにストレッチ、体幹トレと動ける身体を準備する。ちょうどひと通りのアップを終えたところで、係員が入場を促した。
1塁側観客席と外野右翼の狭間に設けられた入口から中に入ると、薄暗く狭い廊下が奥へと続く。
球場自体が古いのだろう。等間隔に設けられた照明は、光量も乏しい。
また、澱んだ空気はかなりの湿気を含んでいるため、屋内にもかかわらず不快極まる。
そんな中を選手達は黙って奥へと進む。ひとり々の顔から汗が滲んでいた。
通路は奥で右に折れている。右に曲がると通路は急に明るくなった。
わずか先に幅広の階段。そのを上がればベンチだ。
外の明るさと歓声、そしてグランドの匂いが選手達の気を昂らせる。