やっぱすっきゃねん!VJ-4
「なんか…すごくくさいんだけど」
「アルコールだからね」
爪の汚れを取った加奈は、小瓶を取ると裏面に目をやった。
「これ、トップコートじゃない」
「何それ?」
「最後の仕上げに塗るヤツ」
加奈は再びキャビネットからなにやら取り出した。
カタチは違うがマニキュアの小瓶。
「最初はこっちを塗りなさい」
佳代の手を取ると、爪先から根元へと薄く液を塗った。
「あ〜ッ、なるほどねえ」
「3分くらい待って乾いたら、次はこっちを塗りなさい」
「分かったッ、ありがとう」
それから数十分。出来上がった爪を前に、佳代は──ほうっ─と感嘆の声をあげた。
「すごくきれい。自分のじゃないみたい」
指先を揃えて見つめる様は、いつも見せない女の子らしい仕草だ。
だが、加奈はそんな娘の気持ちに釘を刺す。
「残念だけど、それじゃ試合に出れないわよ」
「エッ?どうして」
「そんなにきれいじゃバレバレじゃない。表面を軽くヤスリを掛けなきゃ」
「エ〜〜ッ、本当に…」
「ダメよ」
喜びは一気に醒めた。佳代はしばらく難しい顔をしていたが、仕方なく爪研ぎ用ヤスリで表面を擦った。
「はあ、せっかくきれいにしたのに…」
艶やかな表面は跡形もなくなった。今度は落胆のため息を吐く佳代。
「野球のためでしょ、きれいに塗るのはいつでも出来るでしょう」
フォローの言葉に気を取り直す。
「そうだね。そのために葛城コーチにもらったんだから」
佳代は笑顔を取り戻すと、──勉強してくる─と云ってリビングを後にした。
すると、加奈の視線が修に向いた。
「修、あんたは良いの?佳代は行ったわよ」
いつもと違う柔らかい口ぶり。かえって修には強いプレッシャーが掛かる。
「わ、分かったよ」
修は立ち上がると、ぶつぶつ文句を云いながら出て行った。
「ビールでも飲もうか?」
健司は笑みを浮かべて加奈に云った。
「いいわねッ」
加奈はキッチンに向かうと、冷えた缶ビールとグラスを2つ持って来た。
健司は缶ビールを開け、それぞれのグラスに注ぎ入れた。
互いにグラスを手に取った。
「何に乾杯するの?」
「そうだね。子供の成長と、ボクらの未熟さに」
グラスが重なった。