やっぱすっきゃねん!VJ-3
夕食の片づけも終わり、くつろぎの時間を迎えて皆がリビングでテレビを観ていた時、
「あッ、忘れてた」
佳代はそう云ってリビングから自室に向かい、何やら持って戻ってきた。
テーブルに置かれたのは、洒落た小瓶─―マニキュアだ。
健司と加奈は小瓶を前に顔を見合せる。
「これ、どうしたの?」
加奈がおそる々と訊ねる。すると、佳代よりも素早く修が答えた。
「直也さんにもらったんだよ」
「エッ?直也って他に好きな子いたでしょう?佳代に変わったの」
あまりの的外れな加奈に、佳代は顔を赤らめ、
「いい加減なことを云うなッ!」
修の頭を平手打ちする。
「イッテえなッ!バカ力で殴んなくったっていいじゃないか」
「人の嫌がることを云うんじゃないの。女の子に嫌われるよ」
佳代は加奈の方を向くと、マニキュアの経緯を話して聞かせた。
「なあんだ、そうなの」
加奈は安堵のため息を吐いた。──野球以外に興味のない娘。
そんな存在に少しやきもきしていたが、いざ、現実を突きつけられた場合の覚悟がなかった自分。
ふと、となりを見ると健司も同じように笑っていた。
──こりゃ、まだまだね。
「ふふ…」
思わず声が漏れた。
「母さん、何笑ってんの?」
「なんでもない…」
「あッ、私にマニキュアなんかと思ったでしょッ」
「違うわよ」
加奈は自分たち夫婦に対して笑っていた。──情けなさに。
「まあ、いいや」
佳代は話を終えると、小瓶のキャップを取った。小さなハケが顔を出し、周りを透明な液がたっぷりと覆っている。
「さて」
ハケをそのまま爪に置こうとした時、
「ダメよッ、そのまま塗っちゃ」
「エッ?」
加奈の声に手が止まった。ハケから液がテーブルに垂れた。
「あらら…」
加奈は慌ててテッシュで拭き取ると、
「塗る前に爪の汚れを落とすの。それに、瓶の縁で余分な液を落として薄く塗るのよ」
加奈はキャビネットの引き出しからなにやら取り出した。
小さなボトル。
「まず、これを爪に塗るの」
ボトルの液をコットンに取り、佳代の爪に塗った。