やっぱすっきゃねん!VJ-2
「あッ父さん。昨日もらったスーツ、あれ、とっても良かった」
食事の最中、佳代が健司にそう云うと、
「どう良かったのさ。詳しく教えてよ」
修が喰い付いて来た。自分も欲しくてたまらないのだろう。目が見開いている。
「…ん〜そうだねえ」
佳代はそう前置きすると、口元に人差し指をおいて天井を見つめた。
「…まず、着た最初は窮屈なの。すごく抵抗があって動きずらいんだけど、ひと汗かくと逆に動き易くなって、身体の中心がブレずに動けるの。特にダッシュの時なんか、後ろから押されてる感じで足の負担が少なく感じた」
かなり抽象的な感想だが、修には良さが伝わったようだ。
「あ〜、オレも欲しいなあ」
憧れの表情で遠くを見る修。そんな姿に、佳代はいじわるを云いたくなった。
「あんたは、あと2年我慢しな」
「どうして?」
「今、買ってもすぐに背が伸びて着れなくなっちゃうでしょ」
「ああッ、そっかあ…」
「そう、だから3年になって買いな」
現状を突きつけられ、意気消沈気味の修。佳代は──少し云い過ぎた─と思った。
「心配しなさんなッ。あんたが3年になった頃にゃ、もっとすごいのが出てるよ」
「そうだねッ、そうだよね」
修の顔に笑顔が戻った。
彼自身、あれから気になって新聞のチラシなどを見てみると、同様のスーツが様々なメーカーから発売していたのだ。
修は気を取り直すと健司に云った。
「父さん、オレが3年になったら買ってよ」
「ああ。そのかわり、休みの夕方には家の手伝いをするんだぞ」
「エッ?オレも」
「そりゃそうさ。佳代はちゃんとやってるぞ」
健司はそう云うと餃子を箸でつまみ上げた。
そう、修が練習後にリビングで涼んでる時、佳代は加奈と一緒にキッチンに立っていたのだ。
「分かったよ。何をやるの?」
その途端、今度は加奈が話に割って入る。
「じゃあ、今日から父さんと一緒に食後の後片づけね」
「エエーッ!」
思わず渋い顔で叫んだ修。それを見た佳代も健司も加奈も、一斉に声をあげて笑った。