やっぱすっきゃねん!VJ-15
2球目は真ん中から内側へのスライダー。バッターは身体を反らしてボールを避けた。
達也は次の球を外角ストレートを要求する。──佳代は頷いた。
3球目が投じられた。達也の構えは低め、ボール2個分外。
しかし、ボールは内側に入ってしまった。
打球がライトのライン際に舞った。加賀と交替した川畑は、前へと突っ込んでくる。
右バッターの放った打球は、右へ右へと流れていく。川畑はなおも打球を追った。
打球がグラブに収まった。瞬間、フェンスに激突した川畑はファウル・ゾーンにつっ伏した。
「川畑ッ!」
佳代の頭の中に、いやな思いが甦る。それはちょうど1年前、先輩の羽生が同じアクシデントに遇い、鎖骨骨折したのだ。
蒼白の顔で見守る佳代。
だが、川畑は自力で起きあがると右手のグラブを高く上げた。
永井は慌てタイムを取って様子を見に行かせた。
「大丈夫か?」
稲森が駆けつけた。
川畑は痛みをこらえて笑顔で答える。
「あちこち痛いですけど大丈夫です。フェンスが迫った時、無意識に受身をとったみたいで」
「そいつは良かった。おかしかったら、すぐに言えよ」
「ハイッ!」
稲森は下がり、試合が再開された。
3番バッターが右打席に入った。その初球、内側を突いたストレートが甘く入り強振された。
速い打球が三遊間に飛んだ。サード乾が横っ飛びで抜かれた。ショート森尾は、地面と平行な状態から滑り込みボールを捕った。
森尾は素早く起きあがると、振り向きざまにファーストに送球する。
ファーストの一ノ瀬は、目いっぱい身体を伸ばすとバウンドしたボールを捕った。
塁審の右手が上がった。
「6球か…最終回もいくか」
永井の中で、もう少し試してみたいという思いが浮かんでいた。
ベンチに引き上げてきた佳代は、川畑に駆け寄った。
「身体はッ?大丈夫だったッ」
佳代は心配気に川畑の身体をベタベタと触ってきた。そのあまりの狼狽えように、川畑の方が恐縮して苦笑いを浮かべると、
「だ、大丈夫ですって!なんともありませんからッ」
そんなやり取りをしている傍に、達也が寄ってきた。
「とりあえず、0点に抑えたな」
達也は嬉しそうだが、佳代はかすかに笑っただけだった。
「でもさ、達也に川畑、森尾に助けられてさ。私、なんにも役に立ってないし…」
相変わらず自分を出せないことに消沈する佳代。
その時、達也の顔色が変わった。