やっぱすっきゃねん！Ⅲ⑪-14
「あいつ、なにやってんだ？」
今まで見せたことの無い動きに、ベンチの直也が声をあげた。
一哉のアドバイスを佳代なりに考えたすえの行動だった。
再び正面に向き直り、左足をプレートに乗せるとセット・ポジションに構えた。
東邦のバッターは１番から。達也は初球を外角低め、ボールのサインを出した。
佳代はサインに頷いた。軽いステップから右足を前に伸ばし、スパイクの先が窪みをとらえた。
左足がプレートを蹴り、上体が前方へと流れ左腕からボールが放たれた。
狙い通り、わずかに外れたストレートが外角のミットに収まった。
──たしかに、ずいぶんキレは戻ったな。
達也はそう思いながら、次は内角低めのストレートを要求する。
佳代はサイン通りに投げた。が、バッターは素早くバントの構えをすると、プッシュバントを試みた。
──あッ！
ボールはファースト側に転がった。意表を突かれた佳代もファーストも対応出来ない。
「くそッ！」
ようやく追い付いた時には、打者は１塁を駆け抜けていた。
一ノ瀬は佳代にボールを戻しながら、
「ランナーは気にすんな。ひとつづつアウトにしよう」
「わかった」
励ましの声に笑顔を作る佳代。２番バッターは打席に入るなりバントの構えを見せる。
──この状況でバントはないだろ。
達也のサインはスライダー。佳代の右足が上がった瞬間、ランナーは走りバッターはバットを引いた。──ラン・アンド・ヒット狙い。
バッターは振りにいった。が、ボールは横にスライドしながら落ちた。
空振りするバッター。達也は低い位置で捕ったボールを素早くセカンドに投じた。
しゃがみ込んだ佳代の頭上を、達也のボールが走り抜ける。替わったばかりの和田が、ランナーと交錯する位置で構えた。
ランナーが滑り込んでくる。ボールを捕った和田が足元にタッチする。
「アウトッ！」
セカンド塁審が右手拳を振り上げた。
「ヨシッ」
達也が右手でミットを鳴らした。
ノーアウト２塁とワンアウト、ランナー無し。──この差は大きい。