やっぱすっきゃねん!VJ-13
──いけるッ!
中継のもたつきを見た加賀は、2塁も蹴った。
上下左右にブレる視界の中、目指すは白いベースだけ。加賀は懸命に走る。
セカンドがサードへと全力で投げた。サードは、3塁前で捕球体勢に入った。
「滑ろォーーッ!」
サード・コーチャーが低く構えて腕を下に振っている。加賀は体勢を低くすると、両足を蹴って滑り込む。サードはボールを捕って加賀の腕にタッチした。
乾いたグランドの土が舞い、2人の汗ばんだ肌に貼りついた。
「アウトッ!」
塁審の右腕が上がった。
「くそッ!」
東邦の選手逹がベンチに引き上げる中、加賀は立ち上がった。
顔からユニフォームまでドロにまみれた加賀の肩を、サード・コーチャーの秋川が叩いた。
「もうちょっとだったんだがな…」
加賀は秋川にポツリと云った。
「仕方ねえさ、好走と暴走は紙一重って云うだろ。でも、おまえのおかげで追加点が入ったんだ。良しとしとこうぜ」
「そうだな」
加賀は駆け出した。ベンチに帰る途中で、直也が彼の帽子を持って待っていた。
「ナイスバッティングッ!」
直也の顔が笑っている。つられて加賀も笑った。
ヘルメットと手袋を外して直也と共にベンチに戻っていく。
「良くやった。川畑と交替だ」
「そうか…」
加賀はライトに向かう川畑に手を振った。──頼むと。
ベンチ前で、登坂準備のキャッチボールを繰り返す佳代の元に、稲森がやってきた。
その手にはスポーツ・ドリンクの入ったカップが握られている。
「佳代ッ!頼むぞ」
「わかった。精一杯投げるよ」
カップを受け取り一気に喉に流し込むと、佳代はマウンドへと駆けて行った。
達也からボールを受け取り、スパイクの裏で土の感触を確かめながら丁寧に均し、プレートから6歩の位置を浅目にえぐる。
両足をプレートに乗せて前を向いた。達也の構えるミットが見えた。
1球、1球、確かめながら投球練習を繰り返す中、佳代は不思議な気持ちになった。
最後の投球練習を終え、ボールがセカンドに送られた。内野にボールが渡り、佳代の元に返ってきた。
達也がマウンドに近寄る。
「佳代。オレのミットだけ見て投げろ」
達也の声に佳代は頷くと、
「それがさ。この間みたいに周りが気にならないんだ」
「気にならない…?」
達也は周りを見た。準々決勝とあって、客席はあの日以上に埋まっている。
──2日間の投げ込みで、少しは自信を取り戻したかな?
達也は──しっかりな─と声を残してマウンドを降りた。
佳代はプレートから1歩下がると後ろを振り返った。
内外野を守る仲間達、ひとり々に目をやった。