やっぱすっきゃねん!VJ-12
稲森は冷静さを保って淡々と投げた。ストレートの威力では直也や淳に敵わない。
そう思った彼は、練習でコントロールと変化球を磨き続けた。
そのおかげか、4回までをヒット3本だけの無失点に抑えていた。
対して東邦のピッチャーも、2回以降は立ち直ったかにみえた。
だが、3巡目に入った4回に再び連打を浴び、3点を与えてしまった。
「佳代。次、行くぞッ」
永井が告げた。歓声に沸くベンチが静かになった。
「下加茂、ボールを受けてやれ」
「ハイッ!」
ベンチが慌ただしくなった。 永井はどうやら、中継ぎで佳代を試すようだ。
──ついに来たッ。
1回戦以来、しばらくぶりの登坂に佳代はしびれた。
下加茂の準備も目もくれず、厳しい形相でブルペンに入った。
「ねえ、アレ、佳代じゃない?」
ブルペンに目を凝らす尚美と有理。そこには、確かに親友の姿があった。
「行こうッ!ナオちゃん」
2人は席を離れ、佳代の傍に近づこうと席を立った。
「佳代ッ、もらったチャンスを大事にね、あんたなら出来るからッ」
「佳代ちゃん、頑張って」
ブルペンで投げる佳代に励ましの声が掛かる。彼女にとって、この上ない援軍だ。
「ありがとう。精一杯にやるよッ!」
佳代は喜びの顔を2人に向けて、登坂の準備を繰り返す。
5回を終えて6点差をつけたところで永井が動いた。稲森の場面で和田を打席に送った。
この回、東邦のピッチャーは背番号10の控えに替わっていた。
和田は、2ボールからの3球目に投げたストレートをライト前に弾き返した。
次の森尾がバントで送り、秋川の場面で川畑を打席に送った。
川畑はスライダーに手が出てしまった。打球はボテボテのファーストゴロ。
しかし、和田を3塁に送る進塁打となった。
打席には9番の加賀。前の2打席を凡打に終わって、なんとか塁に出たいと意気込んでいた。
「ヨシッ、こーいッ!」
握ったバットを前に突きだして叫んだ。──おのれを鼓舞するために。
ピッチャーがセットポジションから右腕を振り切った。ボールは外角のストレート。
加賀はステップした左足を大きく踏み出し、重心を低くしてバットを振り抜いた。
鋭い打球がセカンドの頭上を越えた。
「よっしゃーーッ!ダメ押しだ」
打球は右中間を転々とする。3塁ランナーの和田はゆっくりとホームを踏んだ。
加賀は1塁を蹴って2塁へとひた走る。ようやくボールに追いついたセンターが、外野近くにカバーに入ったセカンドにボールを返す。