夏の夜のお話・姿見-3
髪は私より短くて、目の細い感じの女…
後日、それとなく男にそんな女を知らないか?と聞くと男はしばらく考えて…
勤務先で事務をしている女に似てるなぁという。
私はこう考えだしたのだ。
私には不思議な能力があって、男と愛し合ってる時に鏡を覗くとその男と結婚して生涯を共にする女が見えるんじゃないだろうか?
和也はきっとあの女と結婚するんだろう。
ほどなくして別れたその男も勤務先の人と仲良くなって結婚するのかも知れない。
二人とも幸せになってほしい…
これでも私は本当にそう思ったのだから。
私にしてみれば男のかわりはいくらでもいるのだ。
あいにく微塵にも惜しいとは思わない。
また、その後も同じような事が何度か続いた。
… … … …
そうこうしているうちに私も25を過ぎてしまった。
女の賞味期限なんてまだまだ先だとは思ってはいるが、だんだん私に言い寄ってくる男の質と量が違ってきたような危機感みたいな気がする。
そんな事を考えてる時、私は初めて自分から好きな男に出会った。
仁と言って気持ちが本当に優しいけれど、私の側からいうと何かと面倒を見てやらなければならない男。
よくは分からないけれど、今までの男たちとは違う…
粗雑でいて純心な感じの男なのだ。
車を運転していて左折する時にふと、ショーウインドウをわき見したらこの男が乗っていた自転車を引っ掛けてしまったのだった。
仁は足を挫いたのか少し痛そうにしていたが、大丈夫だと言った。
ナンバーでも覚えられていて、後で面倒な事にでもならないかと私は男を病院に連れて行き警察に届け出て保険会社に連絡して然るべき手続きを取ったのだ。
医師は軽い捻挫と診断して、仁は重ね重ねもういいですと言い続けた。
もちろん、警察には届け出たが人身事故として申し立てる必要はなかった。
自動車の保険会社も出る幕がなかった。