距離〜佐山と剛〜-1
文化祭前日。
いよいよ本番を目前にし、最終準備に追われながらも校内全体が浮足立っている。
その中の一つ、中庭の目の前の1年4組の教室を使うことになった剛達のクラスは…
「おーい手の空いてる男子!ボケッとしてねーでこっち手伝えー!あとそこの女子諸君!今はその作業いらないから、先にあっちやって!もう時間無いよー!」
文化祭でのクラスのリーダーを勤めることになった美沙の怒号が飛ぶ。
それを脇目にマイペースにDJブースのセッティングをしている剛と、美沙から剛のお手伝いを任命された佐山。
「美沙ちゃんの気合いハンパねーな…」
「そうだね…。まぁ前から凄い楽しみにしてたからさ」
「ふーん」
「剛くんは楽しみじゃないの?」
「まぁ…楽しみと言えば楽しみだけど…でも色々あってさー…」
「あ…千華ちゃんのこと…?」
「そうそう。って、知ってんの?」
「今日の昼くらいかな、途中の休憩の時に美沙と順平くんにね…」
「あいつら…。まぁでもそんな感じっすよ。なんだかなー」
「別れちゃったの?」
「あぁ、うん。フラれてさ」
「フラれたってどういうこと?」
「だからそのまんまさ。俺がフラれたの」
「その…千華ちゃんがあんなことしたのに…?」
「そう。あ、佐山さんあのケーブル取って」
「これ?」
「その隣。そうそれ」
「よっと…はい」
「ありがと。まぁなんつーかさ、俺が千華を見てなかったって理由と、俺が優し過ぎるって理由で、ね」
「………」
「“なんで私が悪いのに剛がそんなに謝るの?剛の中に他の人がいるなら、なんで自分に嘘ついてまで私と一緒にいるの?素を見せてないのは剛も同じじゃん…。そんなに優しくされたり気を使われる方が余程傷付くんだよ。アホ!バカ!”だと」
「そうなんだ…」
「まぁあいつもさ、あいつなりに苦しんでたんだよ。でさ、“私じゃ剛を幸せに出来ないから…いっそ他の人んとこに行っちまえバカ!”ってさ。泣きながら笑いながらフラれた。なんかフッ切れた感じで」