冬の終わり-1
ああ、またやってしまった。最近、こんなことばかりを繰り返している。
いつもの帰り道、いつもの時間。
でも、俺の隣には真冬の冷たい空気があるだけ。
去年なら、耳に染み渡るような甘い声やお日様のように眩しい笑顔、君の温もりがそこにはあったはずなのに。
高校三年生は色々難しい。年が一つ変わっただけで、取り巻く環境がガラリと変わる。
大学受験、就職活動、そして、卒業。
一年前は他人事だったそれらが、容赦なく俺たちを追い立てる。
時間は待ってはくれない。人生の岐路に俺たちを立たせて、こう問うのだ。
『さあ、お前はどの道を行く?』
俺は大学受験を選んだ。
叶えたい夢があったから。君も大学受験を選んだ。
君は教師になりたいと言っていた。
選んだ道は同じでも、俺と君の目指すものは別のものだった。
当然、選んだ大学も違った。
来年は別々の学校。
それでも君はこう言ってくれたよね?
「あたしたち、来年も一緒に居ようね」
俺は嬉しくて、君の桜色の唇に、口づけをした。
「あっ…」
予備校からの帰り。浪人生の俺はわざわざ遠回りしてまで、高校時代、通い慣れた通学路を歩いていた。
そして、見たくないものを見てしまった。
突然、降りだした雪に傘を買おうとコンビニへ走っていた俺は、それを見つけ足を止めた。
コンビニから出てくる、元カノの姿だ。
楽しそうに笑う彼女の隣には、見知らぬ男が、同じように彼女に笑みを返している。
あまりのショックに、俺は中にも入らずその場に立ち尽くしていた。
喉がカラカラに渇き、手と足、唇までが勝手に震えてくる。
そんな俺に気付く事無く、彼女は男と、歩き去っていく。
戯れるように、傘を持たない男の腕に抱きつきながら。
二人が、彼女の家に向かっていることは嫌でもわかった。
だって、それは彼女を送るために、高校時代、俺が彼女と一緒に、毎日のように歩いた道だから。
冬の終わりが君をさらっていく。
取り残された俺は、独り雪を溶かすよ。
春の訪れを、まだ遠くに感じながら…
大好きだった君を想いながら…