夏の夜のお話・百年恋詩2-4
[ 俊っ…俊! ]
こんなに血だらけになって私の所に帰ろうとしていたのです。
[ ひろ…祠…夜明けに祠に立て…
月が赤い…今夜… ]
[ いやぁっ…俊っ! ]
[ 早く行け…後世で待っててくれ…
今度こそ夫婦に… ]
俊はそれっきり二度と目を開きませんでした。
私は追って死のうとしましたが、その時天国なんかありはしないと思ったのです。
神様がいて天国があったなら…
誰がこんな惨い事をするのでしょう?
俊の遺体は[ 御陵なんとか ]って人たちが来て、一緒に殺された仲間と共に夜のうちに埋葬してくれました。
お葬式もなく、かわいそうな俊…
私は俊の血に染まった着物を着たまま、夜明け前にあの祠に戻ったのです。
もし、後世に帰る事ができればいつかまた俊に会える気がして…
… … … …
事件から十八日後。
全裸で学校裏の空き地に突然舞い戻った私は事件について一切口を開きませんでした。
休学して、しばらくは人知れず心のお医者さんに通っていましたが、それから医師の勧めで転校した私は猛勉強しました。
いつか…俊の役に立てる日。
ただそれだけのために…
それから大学を出て歴史の教師となり、百年待ってやっと俊に再会できたのです。
1年C組早瀬 俊
顔も背丈もあの日のままです。
私はすでに27歳。
この時を信じて、命の支えにしていました。
もちろん彼は百年前の事など全く覚えてはいませんが…
それでも私をとっても愛してくれます。
今の私は…
ただそれだけで充分です。