夏の夜のお話・百年恋詩2-3
私は自分だけが急にお利口になってしまって、俊がひとり取り残されたような気になってしまいました。
そして、女は馬鹿な方がいい…
なんて言葉は実はこの上ない知的な格言であるかのように思えたのでした。
先生はもっと話がしたそうでしたが、私は俊に甘えるように眠いと言ってみせたのです。
伊藤先生は最後に天狗の神隠しについてはさすがに知らないが近々、異聞に詳しい人に会うのでそれとなく聞いてくれるといいました。
それから私に未来の話は危険だから誰にも話さぬようにと…
近く京都は戦争になるといい、近々にまた会いたいとおっしゃいました。
それから闇夜に紛れて私たちは帰宅したのですが、今度は俊が興奮してしまって私たちはひとつ布団の中でセックスの間中もずっとアメリカの話をしていたのです。
… … … …
それから数日の事でした。
俊は先生のお供をすると言って夕方に出かけました。
なんでも近藤さんという偉い人に会うそうです。
もっと早く気づけば良かった…
京都で近藤という偉人といえば新撰組の近藤勇。
誰でも知ってます。
俊は今夜、あの近藤勇に会うんだ…
昔の有名人がどんな人なのか私も一度会ってみたい。
そこでふと…
伊藤先生のお名前…
どこかで聞いたと思えば伊東甲子太郎。
学校から見える油小路のあのお寺で新撰組に殺されるのです。
私は走りました。
学校の方へ走り抜けて…
七条の道の突き当たり…
この世界に来てから私はほとんど外に出てません。
今もあまり変わらない油小路の地形は当時、灯りひとつない闇夜でした。
私はそこへきて、息絶え絶えの俊を見つけたのです。