投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

やわらかい光の中で
【大人 恋愛小説】

やわらかい光の中での最初へ やわらかい光の中で 56 やわらかい光の中で 58 やわらかい光の中での最後へ

やわらかい光の中で-57

 だから裕美と2人で海に来ることになった時も、彼は彼女がどのようなタイプの女性サーファーなのかが気になっていた。
 彼女の力量によっては、始終注意して彼女を見ていなければならない。

 そこで、彼女が海に入っていく後姿を見て、彼女の力量を判断することにした。

 世間話をしながら、簡単に柔軟体操を済ませると、裕美は自分が入る場所を慎治に告げ、ゆっくりと海に入っていたった。
 彼女は慎治が思っていたよりは海に詳しいようだった。
 自分で潮の流れを判断し、自分の力量に合ったところからアウトに出て行った。
 波があまり大きくなかったのもあるが、慎治が想像していたよりもすんなりアウトに辿り着いた。
 海の中でも、一応視界の片隅に彼女を入れていたが、それほど危険を感じることはなかったし、何本かに1回は波の崩れ方を確認しながら、左右に板を滑らせていた。また、海に入る前に下らない質問をしてくることもなかった。
 男並にガッツリ海に入るタイプでもなかったが、危なっかしくて、始終彼女を見ていなければならないこともなかった。

 幸運なことに、彼女は立派な初級者サーファーだったのだ。

 しかも彼女は自分で車も所有していた。更に慎治の家からも、それほど遠くない距離に住んでいた。
 彼女とならば、面倒を感じることなく、海を楽しめると彼は嬉しく思った。

 普段、彼女は女の子の友達と一緒に行っているらしいが、その子はGWまで海には入らないということだった。
 冬は知り合いが誘ってくれたときか、どうしても海に行きたくなった時に仕方なく、1人で行くと彼女は言った。
 慎治も、ここ何年かで大学のサーフィン仲間が随分減ったことを話した。
 仕事で東京を離れた者もいれば、結婚して毎週末サーフィンに行っているわけにもいかなくなった者もいる。
 大学を卒業したばかりの頃は、夏も冬もみんなで毎週末海三昧だったのだが、寄る年波にそれぞれ環境が変わり、遊んでばかりもいられなくなったのだ。


 慎治の家に着き、荷物を入れ替えると、彼女はさっぱりと帰っていった。その車を見送りながら、身のこなしがすっきりしていて、付き合いやすい女性だと感じていた。





 3月になったばかりのある日、慎治は再び高沢に声をかけられた。

 しかし今度は、会議室に来るように言われたのではなく、3日後の予定は空いているかと、聞かれた。そして、空いている事を伝えると「杉山常務と食事をするから同席しろ」とだけ言われた。その席がどういう席なのかが気になったが、それをその場で聞ける雰囲気はなかった。


 役員に会ったことがないわけではないが、パーティー以外の酒の席で、同席したことなど、彼にはなかった。自分の会社の役員の顔と名前くらいは一致するが、マイクを通した彼らの声しか聞いたことがない。

 杉山は、54歳という若さで常務に就任した人物である。
 アメリカでMBAを修得した後、そのままアメリカ総本社に就職し、日本に出向という形で20年間働いた。その後、10年弱アメリカで過ごし、一昨年日本本社付けになった時には、常務の席が用意されていた。絵に描いたような、スーパー出世コースを歩んでいる人物だ。
 国籍は、日本で慎治と同じ大学を卒業している。大学卒業後、MBAを修得するために渡米し、そのままロスの総本社に就職したということだった。

 これらの情報は、全て社報に載っていたもので、彼には杉山との面識は全くない。


やわらかい光の中での最初へ やわらかい光の中で 56 やわらかい光の中で 58 やわらかい光の中での最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前