やわらかい光の中で-56
「ユミ、サーフィンやるんだろ。内藤さんも海派でしたよね?」
彼女と慎治を交互に見ながら辻元が言った。その台詞に答えるように慎治が頷くと、彼女は慎治の肌を見なが「やっぱり」と言った。
「冬も毎週、行くんですか?」彼女が慎治に向かって聞いた。
「基本は毎週行くけど、今は隔週くらいかな…。」
彼女の目を見ながら答えた。
優しい目をした女性だと思った。
「私も今月はまだ1回も行ってないけど、基本は毎週行きます。」店員が運んできたビールを受け取りながら彼女が言った。
「いつ頃から毎週行くの?」
慎治がそう聞いている間に、誰からともなく乾杯の動作をし、小さく「お疲れ」と言い合った。
「4月からは毎週行きます。冬はあんまり一緒に行ってくれる人がいなくて…。」 1口目のビールを飲み終えると彼女が答えた。
「でも、色、白いよね。」
「海では能面のように塗りたくってるから。フル着てるときはグローブもするし。」笑いながら彼女が答えた。
毎週海に行くと聞いて、彼女への興味が俄然湧いてきた。そして、そんなにガツガツ行っている様に感じさせない風貌にも更に興味が湧いた。
それから暫し、彼女と海の話で盛り上がったが、辻元が話しについていけていないのを感じると、彼女は自然と話を変えた。
最後には連絡先を交換し、今度一緒に海に行こうと彼が誘うと、彼女は「是非」と笑顔で答えてくれた。
そして、その次の週には2人で海に行く事になった。
◇
サーフィンをやる女の子と、2人で海に行くのは初めてだったので、女性が真冬にどの程度海に入るのか、またその力量は如何程なのかが彼は気になっていた。
何度か、仲間が海に女性サーファーを連れてきたことがあるが、男並にガッツリ波乗りをする子もいれば、他力本願が過ぎるタイプの子もいた。
準備も片付けも遅く、海の中に入っても波打ち際でダラダラ歩いているだけの子だ。そういう子に限って「教えてくださぁ?い」と女子力満々風に近寄ってくる。
男並みに波乗りができる子ならば、それはそれでいいが、後者のタイプの場合は、多少面倒を感じることもあると思っていた。
波乗りとは基本、孤独なものだと慎治は思っている。
海から上がってから何か聞かれたのなら、丁寧に答える気にもなるが、これから海に入るという時に、ごちゃごちゃ聞かれても、それほど丁寧に教える気にはなれない。
なぜなら、こっちも海に入りたくて来ているのだから、その時間をとられたくないのだ。
その辺を弁えず、何を教えてもらえばいいのかもわからない相手に、丁寧に教えることに意味を感じられなかった。
上達したいなら、人より多く海に入っていればいい。
サーフィンは、海に入らなければ上達はしない。
確かに慣れないうちは、海をよく知っている人と来た方が良いとは思うが、それほどやる気もないのに海水浴気分でサーフィンを始めるのは、時には危険を伴うものだ。
遠目で見ていて、危ないと判断したら、危なくならないようにレクチャーもするし、海のルールもそれなりに教える。
しかしそれ以上のことは、自分で積極的に学んで欲しいと慎治は考える性質(タチ)だった。
海仲間に、それは女に対して多少厳しすぎやしないかと指摘され、自分でも認めてはいるが、多かれ少なかれ、誰もが感じていることだと慎治は思っていた。
とにかく、彼は男でも女でも、波好きを口だけで語り、自然をなめている輩が気に食わないだけだ。