やわらかい光の中で-46
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人望の厚い佐久間の結婚式は、盛大に行われた。
2次会にも50人以上の人間が参加していた。
その2次会の席で、慎治は懐かしい顔を見つけた。
「おぉ、辻元。久しぶり。」
先に声をかけたのは慎治だった。
辻元は佐久間のゼミの後輩で、学生時代、少しだけ写真に凝っていた慎治に佐久間が紹介してくれた男だ。
辻元のセンスを慎治は気に入っていた。いい写真を撮るということもあったが、彼が拘って身に付けている小物の趣味にも感心していた。
当時、辻元は写真を撮るだけでなく、パソコンを使って、その加工もしていた。慎治も当時、彼に教わって、それなりに加工技術を習得した。
彼は、サーフィンバカでアナログな慎治に、パソコンの魅力を教えてくれた男だ。
「内藤さん、まだサラリーマンやってるんですか?」
グラスの水割りを飲みながら辻元が聞いた。
「やってるよ。当たり前だろ。お前は、オヤジさんの会社継いでんの?」
辻元の父親は、社員30人程度の印刷会社を経営していた。大学卒業後、彼が父親の会社に就職すると言っていたのを思い出したのだ。
「オヤジの会社は、辞めました。今、こんなことしてます。」
辻元は、内ポケットから1枚の名刺を差し出した。
その肩書きには「代表」とだけ書いてあったが、それが「代表取締役」を示していることは、すぐに理解できた。
「お前、起業したの?」
慎治は驚きを隠せなかった。
辻元は照れくさそうな笑みを浮かべながら、グラフィックデザイナーをしていると説明した。
「こんな時代じゃ、オヤジの会社も先行き不安定だから…まっデザイナーって言えば聞こえはいいけど、友達がやってる飲み屋の箸入れとかのレイアウト、考えたりするくらいですけど。…まぁ、最近は、少しずつ、いい感じの仕事も増えてますけどね。」
辻元らしい仕事だと慎治は思った。
彼は昔から、マイペースな呑気な中に鋭い思考回路を有しているような人物だった。そういう彼の性格が、デザイナー業と経営者という肩書きに合っていると思ったのだ。
「お前、結婚は?」
何の気なしに慎治が聞いた。
「してます。もう3年くらい前かな。内藤さんは?」
「まだ。…なんかいい女いたら紹介してよ。」
日常に交わされる、挨拶のように慎治は言った。
「あれ?彼女とかもいないんですか?」
「…まぁいるけど…。」
「えぇ。意外。内藤さんは、彼女に操を立てるタイプだと思ってたけど。オレの中で、最後の侍だったのになぁ…。年月は人を変えますね。」
淡々とした調子で辻元が慎治を非難したが、嫌味には聞こえなかった。
どこからか辻元を呼ぶ声がした。その相手を確認すると、彼は「すぐ行く」というように、軽く手を上げて続けた。
「適当な子がいて、その時に、内藤さんのことを思い出したら、連絡しますよ。…あんまり期待しないで待っててください。」
そう言うと、辻元は慎治のそばを離れた。