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やわらかい光の中で
【大人 恋愛小説】

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やわらかい光の中で-45

 年が明けて、すぐの金曜日、その日は、大学のサークル仲間との新年会だった。
 次の週にメンバーの佐久間が、結婚することになっていたこともあり、その日は彼の独身最後の晩餐で、みんなで朝まで騒ごうという話になっていた。
 慎治が仕事で少し遅れて着くと、既に仲間は出来上がっていた。「遅い」という出迎えの言葉を浴びながら、慎治が空いていた席につくと、主役の佐久間がピッチャーのビールをコップに注ぎながら、隣の席に座ってきた。
 そして、どこからともなく乾杯の声が上がると、再び酔っ払いの声で、再びその個室は騒々しくなった。

 学生の頃の馬鹿話や仕事、女の話で始終会話は途切れることはなかった。
 夜中の1時を過ぎ、2軒目の店に移動した頃、酔っ払った佐久間が慎治に話しかけてきた。
「慎治は、千鶴ちゃんに結婚、迫られたりしないの?」
 少し呂律が回っていないようだった。今日は主役ということもあり、かなり飲まされているはずだ。酒が弱い男ではなかったが、いつもより少し酔っているようだった。
「佐久間、迫られたの?」
 佐久間の彼女は千鶴と同じ年だった。
 彼は、慎治より1年程遅れて、2つ年上の今の彼女と交際を始めた。2人が付き合う前、慎治と千鶴、佐久間と彼女の4人で夏の花火大会に付き合わされたことがある。それで、佐久間も千鶴のことを知っていたのだ。
「迫られたよぉ。私、子供産みたいんだけどッてね。」
 佐久間は大げさに頭をがっくりと下げた。
「千鶴にそんなこと、言われたことないなぁ。」
 笑いながら慎治は答えた。
「いい子だねぇ。千鶴ちゃんは。もぅ、ここ1年くらいのミサの怖いことといったら…」
 佐久間は結婚を迫る女の怖さをみんなに聞こえるような大きな声で、得意気に話し始めた。
 その話をしている彼は、至極幸せそうに、慎治には映った。

 そして、そんな彼を羨ましく思っていた。

 千鶴と交際を始めた当初、彼女が前の彼との婚約を解消し、親兄弟にも説明を終えたある日、慎治は千鶴に自分の結婚観について話したことがあった。
 当時28歳だった彼の周りの友人も、まだ独身の方が多かったが、慎治はそろそろ結婚を考える年齢であることを意識していた。
 今すぐの結婚は難しいが、30歳くらいまでにはしたいと考えている、結婚に関しては、わりと真面目に考えている方だ、というようなことを言った記憶がある。

 あれ以来、千鶴と結婚の話をしたことがなかったことに、初めて気が付いた。
 彼は、既に32歳になっていた。

 千鶴も佐久間の彼女のように、本当は自分に結婚を迫りたいのだろうかと慎治は疑問に思った。


 3軒目の店を出た頃には、辺りは薄っすら明るくなっていた。
 既に電車は動いていたが、慎治はタクシーを捕まえて家まで帰ることにした。
 タクシーに乗ると、千鶴に「今から帰る」とだけメールを送った。
 付き合い始めてから3年以上、この「帰るメール」を欠かしたことはない。飲み会があった場合、どんなに酔っ払っても、どんなに遅くなっても、この1言のメールを送るというのが、2人の約束だった。

 初めの頃は慣れなかったが、彼女にメールを送っている自分が嬉しかった。
 しかし、今ではただの習慣になってしまっている自分に少し寂しさを覚えた。
 そして、タクシーの窓の外を過ぎる景色に目を閉じた。


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