やわらかい光の中で-24
彼の視線から解き放たれた彼女は自由を取り戻し、硬直したその体は、ゆっくりと解れていった。
彼女は再び柔らかいオレンジ色の光に包まれた。
目の前の外灯は相変わらず優しく、頭上の桜の花びらを照らしていた。
桜の花びらは、その温かい輝きを一層幻想的にして辺りを優しく包み込んでいた。
裕美は彼の次の言葉をなんとなく待ちながら、遠くを見つめる彼の姿をぼんやりと見つめた。
「…それも…いいかもね…。」
先に口を開いたのは裕美だった。
2人の沈黙がどのくらい続いていたのかはわからない。
ただ、彼の視線の先をぼんやりと見つめていたら、自然とその言葉が出てきたのだ。
慎治は落ち着いた面持ちで、まっすぐ向こう岸の桜を見ていた。
…2人は結婚することになった。
それから真剣ともそうでないとも取れるような調子で、2人は今後の事について事務的に話した。
まるで、他人のことでも話すように、2人の結婚の話は進んだ。
確かに結婚に夢を見るようなタイプでも、年齢でもなかったが、少しは何かときめくような気持ちがあるものだろうと思っていた。
けれでもこの時の2人の会話には、残念ながら、何のときめきも、それに似た感情もなかった。
ただ、なんとなく、ふわふわした柔らかいモノに包まれ、ぼんやりとした気持ちでいたように思う。
そして、なんとなく、熱を帯びた頬を心地よく感じていた気がする。
オレンジ色の優しい光が、桜の薄いピンク色の花びらに反射され、柔らかい空間を創っていた。
その中に2人は確かに存在していた。それ以外、確かなものなど何もなかったように思う。
いや、それが確かなものだったのかも、定かではない。
あの時、桜の花が美しくなかったら、外灯が温かくその花びらを照らしていなかったら、2人の結婚はなかったかもしれない。
あの時、あの場所で、あの刹那的な空間に包まれていたから、なんとなく、慎治の申し出を承諾したのだと思う。