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やわらかい光の中で
【大人 恋愛小説】

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やわらかい光の中で-101



ヒズシビーチの夕日を堪能し、哲也と千鶴がペンションに戻ると、既に夕食の準備が始まっていた。

2人はウッドデッキに並べられたテーブルに着き、冷えたビールで乾杯した。
刻々と薄暗くなる空を見上げて、オーナーは各テーブルのキャンドルに火を灯し始めた。キャンドルの揺れる明かりが哲也の頬を照らし、日に焼けた彼の顔が薄暗いデッキの上で更に黒く見えた。

「サーフィンのない海もたまにはいいね。」
微かに遠くに見える海を見ながら哲也が言った、
「海の楽しみはサーフィンだけじゃないのよ。」
その視線の先を見つめながら千鶴が囁いた。

料理は奥さんの手作りで、沖縄料理と洋食をアレンジした創作スローフードだ。
蘭の花がかわいく飾られた白いプレートは南国に来た事を告げていた。
宿泊客は他にはいなかったようで、2人はゆっくり食事を楽しむ事ができた。

キッチンには楽しげに話す夫婦の姿があった。旦那さんが今日あった事を奥さんに話しているようだった。奥さんは料理をしながら、片耳をその話しに向けていて、時折、気のあるとも気のないともとれる返事をしていた。その様子が、まるで子供が母親に懸命に話しかけているようで、千鶴には滑稽だったが、かわいらしい夫婦の姿が確かにそこにあった。


「今日はきっと星がキレイですよ。」
デザートを運んできた旦那さんが、空を見上げながら言った。
「ここは外灯が少ないから、雲がない夜は、本当に空一面に星が見えるんです。キレイですよ。
もうすぐ月も沈むから、海に行けば、夜光虫も見れるかな…。」
「夜光虫?」
初めて聞く名前に千鶴が聞いた。

「良く知らないんですけど、海の中にいる微生物らしいです。ストレスを与えると光るんですけど、月の光でも見えなくなるくらい弱い光で…東京の海にもいるらしいんですけど、東京の夜は明るいでしょ。だから見えないらしいですよ。ここでも月の明るい夜は見えないんですけど、月の明かりを避けられる所に行けば見れるんです。波打ち際とかに一瞬黄緑色の光が浮かぶんですよ。
でも…星の方が綺麗かな…」
「へぇ…目の前の海でも見れますか?」
哲也が目の前の海を指して聞いた。
「あそこは、港の外灯が届いちゃうからな…先程はヒズシに行きました?」
「はい。」
「ヒズシでも見えるけど、逆側に15分ほど歩くとそこにも海が開けてて、そこの方が見やすいかな…ねぇどう思う?」
旦那さんがキッチンの奥さんに大きな声で話しかけた。
「何が?」
洗い物の手を止め、エプロンで手を拭きながら奥さんがキッチンから現れた。
事のあらましを旦那さんが説明すると、奥さんは隣の空いた椅子に座りながら、
「今日はもう月が沈むから、ヒズシよりこっちの海の方が夜光虫は見やすいと思いますよ。」
その海の方向を指しながら奥さんが言った。旦那さんもその横の椅子に座り、今度は夫婦でどこの景色が綺麗か空を見ながら話し込み始めた。
「仲がよろしいんですね。」
微笑みながら千鶴が言った。夫婦は目を見合わせて照れながら微笑んだ。
「よろしかったら、僕達ももらっていいですか?」
旦那さんが哲也のビールを指しながら、言った。
「もちろん。」
千鶴と哲也は2人で声をそろえて答えた。


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