夏の夜のお話・百年恋詩-3
私は刀を見て、殺されると思い一目散に逃げ出したのですがお寺のガレージにあたる部分は白い塀になっていて逃げられませんでした。
[ 待たれっ!何もせぬから話してみよ…
何があった? ]
侍は両手を挙げて私に一歩一歩近づいて訪ねました。
[ わ…わからない ]
私は何か答えなければ刀で斬られると思い、震える声を絞り出します。
[ 物盗りにでも逢おたか?
どこの娘だ? ]
そこへお寺の小僧さんたちが騒ぎを聞きつけてきて、私は小僧さんたちの着る白い着物を借りてどこか見覚えのある本堂へと連れて行かれました。
… … … …
[ ふむ、早瀬殿…
この娘の申す事、あながち嘘とも言い切れませぬのう ]
私が事情を分かる範囲で一生懸命話すと歳をとった和尚さんがモゴモゴと語った。
[ あの祠の言い伝えですがなぁ…
高雄の天狗の祠という事ですわ
何でも人隠しにしたものがあの地から現れた事が何遍かあると聞きましたわ… ]
[ 神隠しの? ]
[ ふむ、私も小さい頃に一度だけ神隠しの御仁に会おた事があるんですが、子供心にも何やらけったいな…
遠い後世や先の人が時たまあそこに落ちてくるいうてから、天狗の祠を祀ってるっちいいます ]
[ ふうん…奇怪な… ]
侍は私を見つめて
[ そこもと…後世からの者であれば、この戦
勝つのは徳川か?
それとも長州か? ]
[ と…徳川? ]
そこへ若いお坊さんが口を挟む。
[ 早瀬殿、この娘子だいぶ混乱しております
それにここは院内にあれば殺生事は… ]
[ あ…いやすまん
気がはやって仕方がない
ともかく、この娘は私が面倒を見よう
しかしながら明日にでも先生に無心して棲家を手配する金子を調達せにゃならん…
和尚…2、3日娘を預かってはくれぬか? ]
私がお寺で暮らして二日目の夕暮れに侍はまたやって来ました。
早瀬 俊(はやせ しゅん)といって山陰の方からこの京都にやってきた侍だそうです。
私は彼に連れられて民家に身を置きました。