夏の夜のお話・百年恋詩-2
そう…
私は彼の目を惹こうと空き地を歩いていて…
見えない穴に落ちてしまったのです。
地盤沈下による陥没。
あるいは戦時中の防空壕跡…
そんな物は空き地をいくら探しても見つかりはしませんでした。
ただ…
地元のお年寄りがいうには戦前まで小さなホコラがあったといいます。
何のホコラなのか?…
までは幼かったから分からないのですが、田んぼの傍らに小さなホコラが祀ってあったと…
私が暗くて深い穴に落ちた場所は夕暮れの田園風景でした。
校舎もなく、民家もなく。
ただ学校の前のお寺だけが見えました。
私は裸でした。
下着すら纏わない素っ裸で新生児のようにホコラの前にうずくまっています。
恥ずかしいよりパニックになった私は裸のまんまで唯一見覚えのあるお寺へと駆け込んだのです。
混乱した頭の中で、見覚えのあるお寺のお庭に潜んで助けてもらおうかと考えていましたが、どう考えても気のいいお寺の奥さんがいるとは思えません。
その時には薄々感づいていたのですがここは私たちの世界じゃない…
私の家もないし、学校もない。
両親はおろかお婆ちゃんだってまだ生まれてもいない。
あるのはお寺と田んぼだけ…
どのくらいの時間。
私はお庭のソテツの陰に潜んでいた事でしょう…
意を決して本堂に助けを乞おうとした瞬間、出会い頭に若い侍が出てきたのです。
[ 何をしている? ]
歳の頃なら私と同じぐらい…
男性にしては少し背が低いほどで私といくらも変わらない。
海老茶色の着物に袴姿で本物の刀を下げていました。