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夕暮れ時の一コマ
【青春 恋愛小説】

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夕暮れ時の一コマ-1

夕暮れ時の校舎の中。和樹は誰もいない教室に入り、窓際の机に腰をかけて空を眺める。

―なにをしているんだ、俺は。黄昏る男は絵になるねぇ。てか?

なんて、考えてみる。こんなの何時もの俺じゃないぜ、まったく。と思いつつも今日は色々おかしい。
さっきまで放課後の校舎を、何かを確かめるようにただぼんやりと歩いていた。
「黄昏時、絵になる男が、空眺め、一人つぶやき、変な人」
まったくその通りだった。短歌にしたって、変な人には変わりない。

「変な人・・・ねぇ、まったくその通りよね」
いきなり後ろから声をかけられて、和樹はドキッとする。後ろを振り返ると、ロングヘアーのきれいな黒髪をした女の子が教室のドアの所にいた。
「いつから、居たんだ?」と、尋ねても和樹にはまり関係のないことだったが。
「さぁ・・・丁度、俳句読み始めたあたりからかしら?と言うか、その席私のなんですけど」
「俳句じゃない、短歌だ」
「あんまり変わらないじゃない。じゃなくて、席に座らないでよ」
しぶしぶといった様子で、和樹は前の席に移動する。
「で、あんたは何してんのさ」
空に視線を戻し、つぶやく様に女の子に声をかける。
「忘れ物を取りに来たの、君の後つけてた訳じゃないわ、それと私はあんたとか言う名前じゃない桂木沙紀よ」と、言いつつさっき和樹が座っていた机に腰をかけた。
「俺も、君じゃない。城山和樹だ。つか、机に座るのかよ」
「いーの、これは私の机だし」
「学校の備品だろうが」
和樹がそう言うと、ちょっとすねた様に頬を膨らませて、「ぷっ」と吹くと可笑しそうにくすくすと笑った。
「屁理屈言うのね、きみ・・じゃない和樹君は」と、楽しそうに話して、和樹と同じように空を眺める。
それ以上は言葉も無く、山の陰に隠れそうな太陽を並んで見る。無言が作るひとつの空間。
二人の無言が作り上げた、このときだけの空間。息苦しいことは無く、むしろ心地よい。

ゆっくりと、しかし確実に終わりに近づく空。闇はすぐそこまで来ていて・・・。

どれぐらいそうしていたのだろう、スピーカーから雑音が少し流れた。
ただそれだけの事のはずなのに、雰囲気がずれた気がした。
二人とも空を見上げたまま、先ほどと変わらないはずなのに。そして、スピーカーからの雑音が少しずつ大きくなって、女性の声が流れた。
「下校時刻になりました。まだ校内に残っている人は、速やかに下校してください。・・・繰り返します。」
この時、雰囲気が壊れ時間の流れが元に戻ったかのように感じた。
日はもう沈み、空は紅色からゆっくりと闇に染められていた。まるで、スピーカーからの声が合図かのように。
「もう終わり・・・か」
「だね・・・」
また、沈黙がヴェールのように覆う。


数分しない間に、廊下から足音が響いてきた。和樹と沙紀は後ろを振り返ると「こら君たち、いつまでも残っていないで、早く帰宅しなさい」と男性の教師に言われた。
「あ、はい。すぐ帰ります」
「判りました」
急いで教室を出ようとすると、「まー、なんだ。次来た時いたら、生活指導室に連行してやろう」
男性教師はそう言って、苦笑すると廊下を去っていった。あの苦笑はへんな想像をして笑いを堪えているのだろう。と和樹は思った。
隣を見ると、沙紀も同じように思ったのか、少し苦笑いだった。

唖然とした和樹と苦笑いの沙紀は顔を見合わせて、声を上げて笑いあった。


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