夕暮れ時の一コマ-2
「ぜーったい!勘違いされてるね、私たち」
「だな、まだ今日あったばっかりなのに、ひどい先生だ」
ひとしきり笑いあった後、和樹は自分の荷物がないことに気が付いた。
「あ・・やべ。鞄忘れてる」と、和樹は鞄を教室に置き忘れていることに気が付き、教室に取りに行く。
自分が今何処に居るかわからず、教室の外に出てどの教室なのか確かめてみる。3年6組。
―先輩だったのか。まぁ、気にしても仕方ないよな。
廊下を小走りで、階段は三段飛ばしでひとつ下の階へ。
自分の教室、2年6組の中に入り、窓際の席に取りに行く。
ふと気が付く、「そういえば、さっき座った場所は俺の席と同じ場所なんだ・・・」
この教室の真上にさっきまで居た事に気が付いた。自分の席から空を見上げる。似たような教室、似たような場所、だけど空はもう闇に染まり同じ空は見えなくなっていた。
星がかすかに瞬く空を見て、微かに、しかし確かに心が沈むのを感じた。
「今日の俺やっぱり可笑しいな」と、和樹は声に出して呟いてみる。教室に寂しくこだまして。その声があまりにも寂しく聞こえて。居た堪れなさにさっきまで居た教室に向かってみた。階段を駆け上がり、3年6組の教室に。けれど、教室には誰もいなく。
―やっぱり、もう帰ってしまったか・・・。
寂しさを抱えたまま、今日の自分は本当にどこか可笑しいと思いながら、下駄箱に向かって歩いてゆく。いつもなら、放課後学校に残って歩いたり、声を上げて笑うなんてことはしないはずなのに。
その可笑しさに微笑んでしまいそうになるが、一階に降りてくる間に元の表情に戻った。
下駄箱の前には、ひとつの影。無視して帰ろうとするが。
「なんて顔をして歩いてるのよ、和樹君」
なんて、声をかけられたものだから、振り向いて確かめてみる。
「え、あ・・桂木さん・・・」
「桂木さんなんて、他人行儀よね。それよりも大丈夫?今にも泣きそうな顔してるけど」
「んなことねぇーよ、暗いからそう見えるんだろ」と、和樹はぶっきらぼうに返し、顔を背ける。
―ああそうか、俺はただ、さっきの時間が夢だと思ったのが怖かっただけなんだ。
「ふーん、そっかそっか」
和樹は横目で沙紀を見ると、どこか満足そうに猫のように目を細め、嬉しそうな顔をしていた。
「それじゃぁな」と、和樹は紅くなりそうな顔を隠すように素早く靴を履き替え、校舎を出て行こうとする。
それ以上、沙紀はしゃべらないのか微笑んだまま和樹を見る。
「それじゃーな」と振り返らず軽く手を振り、和樹は帰っていく。
「うん、それじゃぁまた明日っ」と、ともに沙紀は和樹の後ろから追いかけてきて、肩に手を置いたかと思えば頬に唇が当たった。
「こんな出会いがあっても、いいかもね」と、だけ言い残すと沙紀は走り去ってしまった。
「ばぁーか」
なんて、誤魔化してみるけど緩んだ頬はそう簡単に元に戻っちゃくれなかった。