距離〜佐山から見た視点 2〜-2
イヤホンを外しながら、言う。
「いつからいたのー」
「5?6分くらい前からかな」
「何で声かけないのー」
「っていうか寧ろ剛くんにシカトされたんすけど」
「あらまぁ。それは失敬。つかテス勉は?」
「飽きたから休憩してるの。まだ美沙も来ないし。剛くんこそ勉強は?」
「嫌いだからしない」
「潔いね」
「俺は佐山さんとは違うんでねー。どうにも真面目に勉強する気が起きないのだー」
脱ぎ捨ててあるブレザーからタバコを取り出して、火を着けながら言った。
「単純に、俺ってば馬鹿だし」
「そんなことないでしょ。剛くんは寧ろ頭の使い方が上手いよ。回転が早いっつーか。勉強の出来がどうこうじゃなくて、そもそも賢いっつーか」
「それ嬉しいな。まぁでも学年トップの佐山さんに言われてもね、惨めなだけさー」
「せっかく人が誉めてんだから素直に受け取りなさいよ。そういえば今日はどんくらい踊ってたの?」
「ん?とね……えっ…。もう一時間半くらいだわ…。あー怒られる…」
「怒られる?」
「いやさ、ここに来る前までうちの教室で千華とテス勉してたんだわ。だけどつまんねーからソッコー飽きてさ、トイレ行くふりして一服する為にここ来たんだわ。で、一時間半…。やべーっ、めっちゃメールと着信来てるし…」
携帯に目を落しながら、剛くんは言った。
千華ちゃんと、テスト勉強か…。
なんだかなぁ…。
ということは、もうすぐ教室に戻っちゃうんだね。
「…ま、いーや。この後に勉強する気なんかならねーし。もうしばしこのままバックレてまーす」
思いがけない一言。
「…え?いいの?」
「うん。いいの」
「いや、千華ちゃんは?」
「待たせとけよ」
「いや、あんた…」
「いいのだ、別に。一緒にいてもどうせつまんねー勉強するだけだし、教室じゃタバコ吸えねーし、音楽もねーし、そもそも…」
「そもそも?」
「…ほら、楽しいから」
「何が?」
「佐山さんといる方がさ」
遠くを見ながら、煙に目を細めながら、普段となんら変わらないテンションで、言った。