忘れ者の森-7
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僕がまた目を覚ました時、時計の針はとうに約束の時間を過ぎていた。
既に太陽は僕の頭上に位置し、頭を焦がすように燦々と輝く中、僕は息を切らして待ち合わせ場所へと脚を急がせる。彼女の姿を見つけるなり平身低頭で謝っても、ぷいと不機嫌そうに顔を逸らされてしまった。
「もう心配したんだよ」
チークでほんのり色づいた頬を膨らませた彼女の声は、いつもよりトーンが低い。
「本当にごめんっ!お詫びに飴あげるから」
「飴?」
「うん、はい」
彼女の白い掌に、飴の包みを乗せる。
少年に貰った、中身は空っぽの苺のセロファン。彼女は僕と同じように包みを開け、そしてまた同じく眉を下げた。
「もう中身空だよ!」
彼女は怒って、それから少しだけ涙を零した。
驚いて慌てた僕に、彼女は横に首を振った。
「違うの。ずっと大人びたところしか知らなくて、子供っぽいところなんて初めて見れたから」
彼女は続ける。
「だから嬉しいの」
涙を浮かべながら、最高の笑顔をたたえて。
「行こうか、睦月」
彼女の手を取って、僕達は人の溢れる雑踏へ足を踏み出した。
不意にビルの隙間から強風が吹き、彼女の手から苺のセロファンが離れていく。
あ、とお互い声を上げた時には既にセロファンは風に舞い上がっていた。ひらひらと青空を踊るセロファンは、吸い寄せられるように太陽へと向かい。また風が吹いた時には、眩い光に吸い込まれたように姿を消した。
『あーあ、飛んでっちゃった。ドジだなぁ』
ふと、何処からか少年の笑い声が聞こえた気がした。
end